公益財団法人JKA 機械振興補助事業 研究補助 (平成29年度)

・補助事業名:
 高繰り返しナノ秒パルスプラズマを用いたダイヤモンドライクカーボン成膜技術の開発補助事業
・補助事業者名:兵庫県立大学 大学院 工学研究科 電気物性工学専攻 准教授 菊池 祐介

1.研究の概要

 ダイヤモンドライクカーボン(Diamond-like carbon, DLC)はその優れた特性から機械部品のコーティング等、様々な産業分野に使われているが、低コスト化が強く望まれている。本事業では、近年開発されたSiC-MOSFETインバータ電源を用いて準大気圧高繰り返しナノ秒パルスグロー放電を生成し、DLCの高速成膜技術を開発した。特に高繰り返し周波数下のパルスグロー放電特性とDLCの膜質向上の関係を明らかにした。
   

2.研究の目的と背景

 従来のDLC成膜技術は高真空機器が必要な低ガス圧プラズマ装置を用いており、装置コストが高く、また成膜時間が長いことが課題であった。本研究では、真空排気系としてロータリーポンプのみを用いる準大気圧プラズマプロセスにより高速DLC成膜技術を開発することを目的とする。特に最新のSiC-MOSFETインバータ電源を用いた高繰り返しナノ秒パルスグロー放電の生成とその特性解明に基づいたDLC成膜技術を開発する。

3.研究内容

(1)高繰り返しナノ秒パルスグロー放電の特性評価 
 真空容器内に平行平板電極を設置し、ロータリーポンプで真空排気した後、放電ガス(ヘリウム、He)を流して圧力を10 kPaとした。SiC-MOSFETインバータ電源により高繰り返しナノ秒パルス電圧を電極間に印加し、グロー放電を生成した。また、整流器を用いることで両極性パルス電圧を負極性パルス電圧とし、周波数を30〜600 kHzとした。低繰り返し周波数の30 kHzでは、電極間全体にパルスグロー放電が生成され、パルス電圧オフ後のアフターグロー発光は6 μs程度続いた。一方、高繰り返し周波数の600 kHzでは、陰極近傍にHe原子発光線の発光が局在化し、アフターグロー発光も陰極表面にのみ存在した。このように、高繰り返しパルス電圧を印加することで、アフターグローが残存する間に次のパルス電圧を印加できることとなり、それが陰極局在化グロー放電モードを駆動することが明らかとなった。
(2)高繰り返しナノ秒パルスグロー放電を用いた高速DLC成膜
 放電ガスにHeとメタン(CH4)の混合ガスを用いて、高繰り返しナノ秒パルスグロー放電を生成し、繰り返し周波数30〜200 kHzと変化させて、シリコン基板上にカーボン膜を成膜した。30 kHzでは、カーボン膜の硬度は4 GPaと低く、周波数を高くすると硬度も上昇した。その結果、200 kHzでは硬度13 GPaが得られた。また、ラマン分光計測の結果、sp2とsp3に由来する2つのピークが確認され、DLCの典型的なラマンスペクトルが得られた。ラマンスペクトルおよびグロー放電発光分光法から膜中の水素量を定性的に評価すると、高繰り返し周波数にすることで水素量が低下していることが分かった。

4.本研究が実社会にどう活かされるかー展望

 高繰り返しナノ秒パルスグロー放電を用いることで、従来の5倍程度の成膜速度100 nm/minにて、硬度13 GPaのDLC膜が得られた。また、SiC-MOSFETインバータ電源を用いた新しいプラズマ源を提示することができ、今後様々な材料表面改質に適用が可能と考えられる。

5.教歴・研究歴の流れにおける今回研究の位置づけ

 これまで、大気圧・準大気圧繰り返し放電を用いたDLC成膜技術開発を行ってきた。本事業により、従来のSi-IGBTインバータ電源に代わり、最新のSiC-MOSFETインバータ電源をプラズマ生成用電源に投入することが可能となった。本電源を用いて高繰り返しナノ秒パルスグロー放電の特性評価を行い、学術的な成果も多く得られた。世界的に未開拓な新しいプラズマ源であり、今後もこの流れを継続し、新しい研究成果を発信していく。

6.本研究にかかわる知財・発表論文等

(1)原著論文(査読有り)
  1. Y. Kikuchi, M. Ogura, T. Maegawa, A. Otsubo, Y. Nishimura, M. Nagata, M. Yatsuzuka:
    Diamond-like carbon film preparation using a high-repetition nanosecond pulsed glow discharge plasma at gas pressure of 1 kPa generated by a SiC-MOSFET inverter power supply
    Japanese Journal of Applied Physics, Vol. 56, 100306 (4pp) (2017)
  2. Y. Kikuchi, T. Maegawa, A. Otsubo, Y. Nishimura, M. Nagata, M. Yatsuzuka:
    Two discharge modes of a repetitive nanosecond pulsed helium glow discharge under sub-atmospheric pressure in the repetition frequency range from 20 to 600 kHz
    Plasma Sources Science and Technology, Vol. 27, 05LT01 (6pp) (2018).
(2)学会発表
  1. Y. Kikuchi, T. Maegawa, A. Otsubo, Y. Nishimura, M. Nagata, M. Yatsuzuka:
    High-speed peraparation of DLC films using high-repetition nano-second pulsed glow discharge plasmas under sub-atmospheric pressure
    Abs. of 28th International Conference on Diamond and Carbon Materials (ICDCM), Gothenburg, Sweden, Sep. 3-7, O8B.2 (2017)
  2. 前川 拓也, 菊池 祐介, 大坪 陽, 西村 芳美,八束 充保, 永田 正義
    「準大気圧下における高繰り返しナノ秒パルス放電プラズマの発光分光計測」
    平成29年電気学会A部門大会講演論文集、平成29年9月20日、室蘭工業大学、p. 245 (2017)
  3. 菊池祐介、前川拓也、大坪陽、西村芳実、永田正義、八束充保
    「準大気圧高繰り返しナノ秒パルスグロー放電プラズマ生成と表面改質技術への適用」
    第19回関西表面技術フォーラム要旨集、平成29年11月17日、甲南大学ポートアイランドキャンパス、pp. 43-44 (2017)
  4. Y. Kikuchi, T. Maegawa, A. Otsubo, Y. Nishimura, M. Nagata, M. Yatsuzuka:
    Characteristics and industrial applications of afterglows of high-repetition nano-second pulsed plasmas under sub-atmospheric pressure generated by a SiC-MOSFET inverter power supply
    Proc. of Plasma Conference 2017, Himeji, Nov. 20-24, 21P-83 (2017)
  5. 前川 拓也, 菊池 祐介, 大坪 陽, 西村 芳美((株)栗田製作所),八束 充保, 永田 正義
    「準大気圧下における高繰り返しナノ秒パルスグロー放電の放電形態」 
    平成30年電気学会全国大会講演論文集、平成30年3月15日、九州大学、Vol. 1、p.132 (2018)

7.補助事業に係る成果物


発表論文@:https://doi.org/10.7567/JJAP.56.100306
発表論文A:https://doi.org/10.1088/1361-6595/aabe0a