自転車に乗って考えるCO2問題

勤め先から4.5kmほどある自宅から,若干の登り下りはあるが適当な距離なので24段変速の自転車を買って雨の日以外は自転車通勤している。幸い勤め先と自宅がともに郊外にあるので天気の良い日の朝などは緑の山々や田園風景を楽しみながら片道約13分間ほどペダルを踏んでいる。数年前にハ−ドウェアショップで自転車用の速度・距離計を見つけ,年甲斐もなく衝動買いをしてしまった。さっそく自転車に取り付け,毎日速度と距離を眺めながら走っている。これを付けてからは登り坂では20km/hを出すのにも汗だくになるのに下り坂では50km/hものスピ−ドが出ることや,どの道を通れば一番近いか,そして積算すると1年間に2000kmぐらい走っているなどの情報を知ることができるようになった。また毎日見ている風景もこの信号までは自宅から何km,この橋までは何kmと自分の頭の中に一つの座標が出来てきた。
 さて,ものの本によると地球が出来てから約45億年ほどになるとのこと。通勤途中に,勤め先までの距離が4.5kmなのでこれを45億年に置き換えて年表を作ってみたらどうなるだろうという考えが浮かんだ。さっそく家に帰って計算してみると10億年=1km,1億年=100mとなる。したがって,生物がこの世に表われたのはおよそ30億年前と言われているから自宅から3kmのあの住宅街のあたり,恐竜が歩き回っていたのは数億年前だから数100m先のあの店あたりなどというわけで,これまで頭の中の知識でしかなかった地球の歴史が急に身近なものとして実感できるようになってきた。我々人類がいつ誕生したかについては諸説があるが200万年前としてもわずか2m,もう我が家の玄関先である。中学や高校で習った歴史はせいぜい数千年,数mmにすぎない。100年で0.1mmつまり100μmだから長いようでも我々の人生は数十μm,髪の毛の太さに達するかどうかといったところである。このように考えてみると地球の歴史の長さと人類の歴史の短さ,そして人生のはかなさに愕然となった。
 現在,我々が生存できるのは大気に酸素が含まれているからである。皆様ご承知のようにこの酸素は地球に初めから存在したわけではない。20数億年前から植物により炭酸ガスを光合成して生産された酸素が蓄積して出来たものである。数億年前に酸素を吸って炭酸ガスを吐き出す動物が現われたが,酸素とCO2とのバランスは大きく崩れることはなかった。しかし最近世界的な問題になっているように,大気中のCO2濃度が産業革命以降のここ200年ほどで急増し,それにともなう温室効果のためか平均気温も0.3度ほど上昇している。化学工学会でもこのCO2問題が大きく取り上げられ,特集号(化学工学54巻1号(1990))も出ている。CO2濃度が約18%,気温がわずか0.3度上がっただけと考えられるかもしれないが,その上昇速度は驚くべきものである。先ほど説明した4.5kmの地球の歴史年表で考えると,数kmに相当する数10億年という長期間をかけて蓄積してきた酸素や石油石炭といった化石燃料を,わずか200年つまり0.2mmに相当する短期間で大量に消費し,膨大なCO2を排出しているわけで,問題の重大さがあらためて実感できる。  CO2固定化のための技術開発も重要であろうが,まず酸素やエネルギ−を無駄使いしていないか,不要なCO2を排出していないかを考えるべきであろう。通勤途中でも,キャンパス内でも沢山の自動車に追い越されるが,ほとんどが1人乗り,わずか数十kgの体を移動させるのに1tもの車体を動かしている。駆け登った方が早いのにエレベ−タを待つ学生。夜中でも眩しいばかりの広告や照明。運動のためアスレチッククラブへ車で通う矛盾。運動を兼ねて毎日自転車で通勤しながら地球や人類の歴史と未来を考える今日この頃である。


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