研究概要

 核酸は、細胞内において遺伝情報の保存や伝達などさまざまな過程で重要な役割を演じている。その一方で、核酸は、塩基対の積み重なりからなる特異なπスタック構造を有し、電子・ホール輸送媒体として働く分子材料として注目されている。また今日では、核酸の化学・生化学合成法の進歩にともない、複数の異なる機能分子による核酸の化学修飾は比較的容易に行える。さらに、核酸を自己組織化法などにより金属電極表面上へ固定化する方法論も確立されている。したがって、目的に応じて修飾核酸をデザイン・合成しそれらを応用することにより、蛍光性遺伝子プローブ、電気化学遺伝子センサー・バイオセンサー、光電変換素子などさまざまな機能を有する核酸ナノデバイスの構築が行えることになる。このような基本概念に従い、以前から我々はDNA やRNAの機能デザインと合成研究を行い、蛍光性遺伝子プローブや電気化学遺伝子センサー・バイオセンサーの創製に成功してきた。また、DNAを構造基盤とした分子の組織化制御、DNA上に構築された機能性色素集積体を用いた光機能性デバイスの構築に関する研究を行ってきた。

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DNA化学合成による機能性人工核酸(DNA, RNA)の開発

機能性有機色素を集積するための構造体として核酸を利用し、機能性色素の配列によって光捕集・光伝達・電子輸送の機能を有する核酸構造体の構築を行っている。電子ドナー性・アクセプター性色素が交互に積層した集積体や、ドナーとアクセプター部が分離して積層したヘテロ集積体等の多様な構造体を設計・合成し、色素集積体における光エネルギー移動や光電子移動などの動的挙動を明らかにし、それらの特性を生かし光電変換機能を有する核酸修飾電極の作製とその評価を行っている。また、導電性分子の配列・集積によって導電性を向上させた核酸をナノ配線材料とした電極を作製、その電気特性を明らかにし、修飾核酸を利用した光分子ナノデバイスの作製を行っている。

DNAテンプレートを利用した色素集積体の光電変換

一次元に積層化した色素集積体はエネルギー移動、電子移動、導電性などユニークな光物性を示すことから、光捕集システムや有機トランジスタ、太陽電池への応用を目指した色素集積体の構築について様々な研究が行われている。生体分子であるDNAは二重鎖、三重鎖を形成する高い自己組織化能と分子選択性を有し、かつ任意の配列を容易に合成できることから、色素分子の数や位置を制御して集積させることが可能な高分子材料である。そのため、色素とDNAとの共有結合や水素結合、イオン結合などの非共有結合を利用して色素集積体がこれまでに構築されている。我々はサイクレン亜鉛錯体が核酸塩基であるチミンと選択的に結合すること利用してジケトピロロピロール(DPP)およびナフタレンジイミド(NDI)にサイクレン亜鉛錯体を連結した誘導体を合成し、DNAと混合することにより色素集積体を構築できることを見出した。

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DNA構造を鋳型とした分子組織化制御と光化学的挙動の解明

ペリレンジイミド(PDI)は高い蛍光量子収率を示し、光安定性も高く、機能性発光色素分子として広く使われている分子の一つである。また、強い自己会合性を利用した超分子構造体を構築するためのコア分子として用いられている。我々はPDIが有するこれらの特性に着目し、DNA構造を基にPDIの自己組織化を制御することを試みた。核酸塩基部を持たないスペーサー(dS)を用いて疎水空間をDNA内部に人工的に導入することでPDIの特異的な結合を誘起し、dS/dS対の数と配置に基づくPDIの自己組織化と配列制御を行った。

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DNA構造の特定部位に結合する発光応答リガンドの開発

DNA内のミスマッチ塩基や無塩基部等の変異部位を認識し特異的に結合するリガンド分子の開発と、その特性を利用した遺伝子センサーの開発が広く行われている。ペリレンジイミド(PDI)分子は優れた光化学的性質と強い会合性を持ち、環境応答型の発光センサー分子としてや核酸の高次構造の安定化・構造制御に利用されている。電子供与性基を導入して発光性を高めたPDIが結合する空間を持つDNAをプローブとして用いると、ターゲット核酸とのハイブリダイズによってPDIの発光がoffからonになり、その発光強度が著しく増加することが分かった。

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ナノ加工電極を用いた高感度DNA電気化学センサーの開発

様々な形状の三次元構造を持つ電気化学検出用電極デバイスを、MEMS技術を駆使して作製し、そのデバイスに多様な対象物質に応答して異なるシグナルを生じる電気化学検出システムを組み合わせることで、超高感度検出と複数対象物質の同時検出を実現する革新的バイオセンサーシステムの開発・性能評価を行っている。三次元加工することによるデバイス表面積の増加による検出シグナルの増強と、デバイス表面におけるサンプル溶液の濃縮効果に伴う反応促進による検出の高速化に関する研究を進めている。

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