シャストリーサザランド格子上S=1/2XXZモデルの1/2磁化プラトー

例えば三角形の頂点上に白と黒の碁石を置く問題を考え、白と黒が隣合う場合は1点、同色の石が隣合う場合は-1点とする。そうするとある頂点を基準に時計周りに白石から置き始めても、黒石から置き始めても最後の頂点に置く石はどちらの色の石を置いても点数が変わらない。これをフラストレーションという。

磁性体中でもこのフラストレーション効果によって、特異な磁気的秩序状態が現れることが知られている(磁性体の場合碁石は磁性モーメント(スピン)に、点数がモーメント間(スピン間)相互作用に対応する)。フラストレーション効果の一つの特徴はエネルギー的に等価な状態がマクロスコピックな数存在することでモーメント(スピン)の秩序化が抑制される点で、例えば熱揺らぎ、量子揺らぎ、弱い外場などによってある秩序状態が安定化することである。

このようなフラストレーション効果の働く格子モデルは多数あるが正方形と三角形を組み合わせてできるシャストリー・サザランド格子も強いフラストレーション効果の働く系の一つとして知られている(図1)。近年、希土類シャストリーサザランド格子(SSL)物質RB4に対する磁化測定から、多段磁化プラトー(磁場を変化させても磁化が変化しない領域)と呼ばれる振る舞いが報告されている。例えばTmB4の場合、飽和磁化の半分の磁化の点で大きな磁化プラトーが、低磁場側の磁化がおよそ1/10で小さな磁化プラトーが現れる[1]。TmB4の特徴は磁性は軌道-スピンの合成モーメントに由来し、その磁性モーメントには結晶場効果ため強いIsing異方性を持つ点である。この強いIsing異方性を反映してTmB4の磁気的性質は有効モデル、擬スピンS=1/2反強磁性Ising-like XXZモデルで記述されると考えられている。この有効モデルを用いたモンテカルロ計算から、その磁化過程について次のことが明らかにされている[2]。Ising異方性が弱いと磁化プラトーは現れないが、異方性が強い場合にm/ms=1/3(ms:飽和磁化)とm/ms=1/2で磁化プラトーが現れる。しかし、TmB4に対する磁化測定では1/3磁化プラトーは観測されておらず、1/2磁化プラトーのみが現れるメカニズムは明らかになっていなかった。TmB4における磁性モーメント間の相互作用はRKKY相互作用に起因することが示唆されており[1]、格子の持つ幾何学的なフラストレーションに加えてモーメント間の長距離相互作用の存在がその磁性に大きな影響を及ぼすことが予想される。

本研究ではS=1/2反強磁性Ising-like XXZモデルの磁場中有限温度下の振る舞いについて調べた。特に長距離相互作用の効果に注目し、磁場中で現れる磁化プラトーやそのスピン状態について量子モンテカルロ法により調べた。その結果、弱い第3近接、第4近接相互作用が存在する場合に、その磁化過程が大きく変化することが分かった。図2はTmB4の磁化曲線を再現するよう相互作用比を見積もって、磁化過程と1/2プラトー相への有限温度転移について調べた結果である。見積もったパラメータで1/8付近の異常(厳密にはプラトーではなく過渡的状態)を再現することがわかった。また常磁性相から1/2磁化プラトー状態への有限温度転移を見積もったところ、有限サイズスケーリングから4状態ポッツモデルのユニバーサリティークラスを持つ転移が起こることがわかった。

図1:シャストリーサザランド格子
図2:(a)TmB4に合わせたパラメータで求めた磁化過程。(b)(c)1/2磁化プラトー相への有限温度転移に関する有限サイズスケーリング


参考文献

[1] K. Siemensmeyer, et al, Phys. Rev. Lett. 101, 177201 (2008).
[2] Z. Y. Meng and S. Wessel, arXiv:0808.3104 (2008).
[3] T. Suzuki, Y. Tomita, and N. Kawashima, Phys. Rev. B 80, 180405(R) (2009).