いつもの材料強度学研究グループ.新年度になり,新しい4年生も入り,慌ただしい.

4年生のYくんが先輩院生のTくんに質問をぶつける.

Y: 「スイマセン.あのね,院試の勉強していてちょっとわからないことがあるんですけどね,教えてもらえます?」

T: 「あぁ,ええで.何やねん.」

Y: 「スイマセン.あのね,焼き戻し脆性ってどんなことですかねぇ?イマイチ,わからんのですわ.」

T: 「そうかぁ,基本的なところやからなぁ,大事やで.じゃぁ,ちょっと説明しよかぁ〜.」

Y: 「スイマセン.」

T: 「はじめになぁ,鉄鋼材料なんかでな,熱処理する際に焼き入れ焼き戻し,っていう方法があるのは知っとる?」

Y: 「はい,炭素鋼なんかを焼き入れすると組織はマルテンサイトになるんでしたっけ?」

T: 「そうや,焼き入れままだと強度は高くても伸びがでない.せやから焼き戻しをすることによって伸びを改善しようとするんやな,強度はちょっと下がるけど.」

Y: 「ねばさを増すため,という見方もできるんですかね?」

T: 「そうやな.けどな,この時気をつけんとアカンのは焼き戻しをする温度なんや.焼き戻し温度を573 Kあたりに設定すると良くない.何故かと言うとな,この辺の温度で焼き戻しすると吸収エネルギー衝撃値が著しく低下するんや.」

Y: 「イチジルシク?"めっちゃ"っちゅうことですな.」

T: 「そうやで.ちょっとこの2つの図を見てみてくれ(下図参照).ひとつは焼き戻し温度に対する硬さの変化,もう1枚は同じく焼き戻し温度に対するシャルピー試験で得られた衝撃エネルギーや.硬さは焼き戻し温度に対して緩やかに低下しているのに対して,吸収エネルギーは573 Kで低下しているのがわかるよな.吸収エネルギーっていうのは,試験片が破断するまでに必要なエネルギーのことやから,この値が大きい方が靭性は高いことになるんや.このように,吸収エネルギーが硬さの変化に対応していない,573 K付近での脆化,靭性の低下を焼き戻し脆性って言うんや.これは,硬さや引張試験のような静的な試験だけではわからない特性やね.」

Y: 「なるほど.ちょっとムズイですけどよくわかりました.もう一度教科書を読んで頭の中を整理してみます.ありがとうございました.」

T: 「あぁ.院試は大変やけど,君なら大丈夫や!! さぁ,飯食いに行こかぁ.3時限目は授業や.お〜い,Aピー,Sマッチ,Nム,次の授業のレポートやった?」

A,S,N: 「知ら〜ん.」

 〜終

(a) ビッカース硬さ (b) 吸収エネルギー
焼き戻し温度に対する硬さと吸収エネルギーの関係

(機械構造用鋼であるS45C鋼を用いて得られた実験結果です)