研究内容

無細胞タンパク質合成システムタンパク質の一生と分子シャペロン

-無細胞タンパク質合成システム-
私たちは、哺乳動物(ヒト)のタンパク質合成系に関する基礎研究とその応用を進めています。タンパク質は生命活動を担う中心物質であり、生物が恒常性を維持するために絶対不可欠な因子です。それらタンパク質に関する研究を行うためには、タンパク質を活性のある正しい立体構造で効率よく合成する技術を開発する必要があります。そこで私たちはヒト由来細胞の抽出液を利用して試験管内でタンパク質を合成するシステムを開発してきました。しかし、このシステムは細胞内に元々存在する様々な物質を多数含むため、いわゆるブラックボックスでタンパク質合成を行っているに過ぎませんでした。従って現在では、タンパク質合成のメカニズム(図1)をより詳細に理解し、これまでよりもさらに効率よくタンパク質を合成する技術を発展させるために、タンパク質合成に必要な因子のみを精製品として揃え、それらを試験管内で混合することにより、既知の因子のみで再構成した「ヒト由来完全再構成型タンパク質合成系」の開発を目指した研究を行っています。このシステムを利用して、例えばヒトに感染するウイルスを合成し(図2)その合成メカニズムの詳細を理解することで、抗ウイルス剤の開発に結び付けたいと考えています。また、生体内で働く重要なタンパク質は複合体を形成している場合が多いことが知られていますので、タンパク質複合体形成のメカニズムを明らかにし、効率よくタンパク質複合体を合成する方法(図3)の開発を目指した研究も行っています。
図1:タンパク質合成開始部分の詳細図2:無細胞ウイルス合成図3:タンパク質複合体の合成法

-タンパク質の一生と分子シャペロン-
普段意識することはありませんが、私たちの体の中では20種類のアミノ酸を原料として日々新しいタンパク質が作られています。作られたタンパク質は機能を発揮するための正しい立体構造を形成し、細胞内外の機能すべき場所へと輸送され、役目を終えて不必要になった時には速やかにアミノ酸レベルにまで分解され、分解されたアミノ酸は再び新しいタンパク質の原料としてリサイクルされています。この仕組み(タンパク質の一生)に深く関与しているのが分子シャペロンです(図1)。そもそもシャペロンとはフランス語で、社交界に初めてデビューする若い女性に付き添い、一人前の女性として振舞える様に介添え・教育する女性を指す言葉です。同じ様に、分子のシャペロンはタンパク質の一生(誕生から死まで)に介添えし、タンパク質がタンパク質として正しく振舞える様に、品質を管理する働きがあります。私たちの健康が分子シャペロン群によって維持されていると言っても過言ではありません。しかしながら分子シャペロンの働きがあっても、細胞に様々なストレスが加わることによってタンパク質が正しい立体構造を形成出来ずに絡まり合って凝集し、それらが分解されないまま細胞内外に蓄積することでBSEやアルツハイマー病などに代表される神経変性疾患が発症することが最近の研究で分かって来ました。従って、分子シャペロンによるタンパク質の品質管理機構の詳細を解明し、その機構を自由に改変する事が出来れば、将来的には神経変性疾患の予防や治療に対する有効なツールになると考え、分子シャペロン群の中でも特にタンパク質の立体構造形成・構造再生を介助・促進する働きを持つシャペロニン(Hsp60ファミリーに属するものを特にシャペロニンと呼ぶ):大腸菌由来のGroEL/GroESとヒト由来のCCT(図2)に関する研究に取り組んでいます。また、これまではタンパク質の合成「量」に注目して開発を行ってきた無細胞タンパク質合成システムに、シャペロニンを導入する事によって、合成されるタンパク質の「量と質」を向上させることを目指した研究も行っています(図3)。
図1:タンパク質の一生と分子シャペロン図2:大腸菌とヒトのシャペロニンの構造比較図3:無細胞系への分子シャペロンの導入

現在進行中の主な研究テーマは以下の6つです。

(1)ヒト由来完全再構成型タンパク質合成系の開発
(2)ヒト細胞抽出液由来タンパク質合成系の改善
(3)試験菅内ウイルス合成
(4)人工ウイルス合成
(5)高効率タンパク質複合体システムの開発
(6)ヒト由来無細胞タンパク質合成系への分子シャペロン導入