SPring-8夏の学校2005

はじめに
我々は,今年の7月1日〜7月4日の間にSPring-8で開催されたSpring-8夏の学校に参加してきました。ここでは,我々が受講した実習の内容を中心に紹介します。

Spring-8夏の学校とは
SPring-8は世界で最も輝度の高いX線を発生できる第三世代の大型放射光施設であり,素粒子物理,物性科学,物質科学,生命科学,医学などの幅広い分野で研究が行われています。特に,国の基本科学施策であるナノテクやたんぱく質構造解析などで重要な成果が次々と生み出されています。また,次世代半導体微細加工技術や自動車触媒開発に代表されるような産業利用も積極的に進められています。SPring-8夏の学校は,学部および大学院修士課程の学生を主な対象とし,次世代の放射光利用研究者の発掘と育成を目的として,(財)高輝度光科学研究センターと兵庫県立大の共催で毎年開校され,今年で5回目になります。SPring-8で活躍する最前線の研究者による講義と実習を組み合わせて行うことにより,放射光の原理と利用研究成果を学ぶと共に,放射光を使う実習によってSPring-8の夢の光を体験して,その魅力を存分に味わえるようにカリキュラムが組まれています。 初日と最終日が放射光に関する講義であり,二日目と三日目がSPring-8やNew Subaruでの放射光実験を体験する実習です。なお,具体的な実習日程はコチラを参照してください。 

New Subaruにおける実習: 炭素化合物の軟X線吸収スペクトル測定

目的
New SubaruはSpring-8と異なり,利用可能な光子エネルギーは1keV以下の軟X線が中心である。軟X線領域の光子は物質との相互作用が非常に強く物質表面でほとんど吸収されるため,New Subaruは表面分析や光微細加工を得意とする放射光施設である。 本実習では,黒鉛(グラファイト)の軟X線吸収スペクトルにおける入射角依存性を測定し,ここから求まる入射角に対するπ成分とσ成分の強度比を理論式と比べることより,軟X線吸収測定による軌道配向の解析について理解を深めることを目的とする。

実験
軟X線の吸収測定実験はNew Subaru放射光施設の回折格子分光器ビームラインBL-9Aで行った。BL-9Aの光学素子配置を図1に示す。光源は全長11mの長尺アンジュレータであり,分光器はHettrick-Underwood型マウントの不等間隔溝(VLS)平面回折格子分光器である。VLS回折格子の中心溝密度1200 lines/mmである。 軟X線の吸収測定は,図2に示すエンドステーションにおいて試料電流を計測する全電子収量(TEY)法で行った。測定試料は市販の高配向性熱分解黒鉛(HOPG: Highly Oriented Pyrolitic Graphite)と,通常の熱分解黒鉛(PG: Pyrolitic Graphite)である。

図1.ビームラインBL-9Aの光学配置。 図2.吸収スペクトル測定装置。

結果および考察
CK吸収端におけるHOPGとPGの軟X線吸収スペクトルをそれぞれ図3と図4に示す。入射角に対して,HOPTとPGのどちらもσピークに対するπピークの相対強度に顕著な変化がみられた。しかし,HOPGの方が大きな入射角依存性を示すことから,HOPGの方がPGよりも配向性が高いことが本実験で実証できた。 なお,入射角に対するπピークとσピークの強度比(π/σ)の実測値(青点)と理論曲線(赤線)を図5と図6に示す。理論曲線は,π/σ=kcos2θ/(1+sin2θ),k定数(HOPGはk=1.75,PGはk=1.6で計算)である。入射角が大きくなるにつれてπ/σ比が減少するのは,試料面に垂直に向くπ軌道の水平面に対する射影成分が入射角に反比例するためである。

図3.HOPGのX線吸収スペクトル。 入射角θは90, 60, 45, 15°で測定。 図4.PGのX線吸収スペクトル。 入射角θは90, 60, 30°で測定。


図5.HOPGにおけるπピークとσピークの強度比(π/σ)と入射角との関係。 図6.PGにおけるπピークとσピークの強度比(π/σ)と入射角との関係。

実習の様子

New Subaruリングの写真