コンピュータビジョンは、従来のアプローチと現代の技術が互いに発展させ合ってきた分野です。特に、光合成や炭素循環で成長する植物をこの分野に組み合わせることで、生物と機械の類似点や相違点を探りながら研究しています。
植物の専門家だけが知っている情報を自動的に認識・評価することは高度な課題です。本研究の目的は、画像認識により植物に関する専門家的判断を自動化することです。
植物の測定は植物科学の基礎的な分野として確立されており、植物フェノタイピングと呼ばれています。近年のAI技術の発達により、植物科学と情報科学の融合分野に関する研究が広く行われるようになってきました。たとえば、麦の領域の自動認識(Toda et al., Commun Biol, 2020)や花びらの枚数の自動推定(Adamsen et al., Crop Science, 2000)などの研究が挙げられます。私も、樹木の葉の画像から樹木種を推定する研究(奥田ら, TOD, 2023)やウキクサの葉の面積と枚数を自動的に計測する研究(奥田ら, IEICE, 2024)を行いました。ウキクサは、適切な環境下で栽培すると2日で約2倍に増えるという大きな成長率を誇り、バイオマスに有用な水生植物のひとつとして工業的な栽培管理法の開発が期待されています。
これまでに私が行った研究では、樹木の葉の画像から樹木種を推定する手法を提案しています。この手法では、深層学習アルゴリズムを用いて葉の形状や色彩などの特徴を学習し、樹木の種類を推定することができます。また筆者は、ウキクサの葉の面積と枚数を自動的に計測する研究も行い、これによりウキクサの成長状態を効率的に把握することが可能になりました。その一方で、植物の評価・測定におけるAI技術にはまだ課題も多く残されています。例えば、画像の品質や照明条件の影響を受けやすいこと、さまざまな植物種に対応するための学習データの充実が求められることなどです。また、植物の成長過程においては、個体間や環境条件による変動が大きいため、高い汎化性能を持つAIモデルの構築が課題となっています。
これらの課題を克服するためには、植物科学と情報科学の専門家が連携し、植物の成長過程における特徴量の抽出や、AIモデルのロバスト性向上に関する研究など、さまざまな観点から研究を進める必要があります。また、学術と産業の連携により、実用的な植物評価システムの開発・普及を図ることも重要です。今後、植物がどのような環境で育ってきたのかといった過去の情報を推定することも検討しています。
研究情報 | |
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ジャーナル | 電子情報通信学会論文誌D「データ工学と情報マネジメント特集」 |
タイトル | 形・色の特徴に着目したウキクサ科植物の面積と枚数の推定 |
著者 | 奥田 萌莉, 石澤 秀紘, 大島 裕明 |
メンバー | 奥田 萌莉(工、電子情報), 石澤 秀紘(工、応用化学), 大島 裕明(情、データ科学) |
URL | https://cir.nii.ac.jp/crid/1390018462210569984 |