航空・宇宙分野において、耐熱性に優れたNiベースの超合金は利用が拡大しています。構造を形作る材料においては力学特性とその特性をもたらす原子の並びを含む材料組織の挙動が重要です。我々は放射光X線により高温変形中の材料組織の挙動を調査し、メカニズムを明らかとすることを目指しています。
主な対象としてNi基耐熱合金の、室温から高温までの転位の状態の調査と、その力学特性の解明を目指しています。SPring-8において加熱機構を有する引張試験機を用いることで、高温変形その場X線回折測定を実施し、回折プロファイルから転位の状態を求めます。得られた転位の情報から材料の高温時の力学特性について検討を行っており、強度について転位密度から説明することを目指します。これにより、材料開発への貢献が期待されます。
金属材料は構造を形作る構造用材料として幅広く使用されています。構造用材料に求められる重要な特性の1つである力学特性においては、材料中の結晶格子欠陥の一種である「転位」が金属材料の変形を支配しています。このため、力学特性の予測に転位の状態を知ることが有効です。転位の状態を調べる方法はいくつかあり、電子顕微鏡による直接観察やX線や電子線の回折プロファイル測定が主に利用されます。前者については、直接観察による明瞭さと空間的な分布状態を知ることができる利点がありますが、局所的な情報しか得られないこと、高温での応力下で観察しにくいことが欠点です。後者は広範囲の情報を得ることができますが、高温での応力下の調査報告はまだ少ないのが現状です。
高温下で使用されるNi基耐熱合金を主として、転位の状態をSPring-8の高輝度の放射光X線を利用して調査しました。室温から高温における変形中のX線回折情報を得るため、研究グループが有する独自の加熱機構付き引張試験装置を利用します。本装置はX線透過のための薄板試験片を引張変形させつつ、最高1000℃の高温へ加熱することができ、高温引張変形中の試験片側方から入射させたX線の透過回折情報を得ることができます。Ni基耐熱合金は母相以外の様々な結晶相を含むため、リートベルト解析や数値計算により対象となる相の情報(回折プロファイル)を分離します。分離した相の回折プロファイルに対してConvolutional Multiple Whole Profile fitting(CMWP)法により、転位の状態を求めています。
金属材料の強度と延性は転位の状態に加えて、材料組織の状態にも依存します。このため、電子線顕微鏡観察により組織情報を得ることを行っていきます。これらの情報により、高温における強度を表す理論式を解くのに必要なパラメーターを決定することができます。また、延性については転位の状態から延性を決定づける要因を探っていくことが期待できます。これらにより、材料開発に貢献していくことを目指します。
研究情報 | |
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ジャーナル | Materials Characterization |
タイトル | On the dislocation storage capacity of additively manufactured Hastelloy X: In situ synchrotron diffraction study |
著者 | Kartik Prasad, Atsushi Ito, Shiro Torizuka |
メンバー | Shiro Torizuka |
URL | https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S1044580324009549 |