スマホや電気自動車には二次電池(バッテリー)が搭載されていますが、その充放電速度を上げるためには高速充電に適した電池材料の設計が重要です。我々はこの設計指針を得るため、電池材料のどのような因子が反応速度に影響を与えるかを明らかにすることを目的として研究を行っています。
近年、電動車や家庭用蓄電システム等にも用いられている二次電池の重要なスペックの一つに充放電速度が挙げられ、これまでその高速化のため様々な取り組みがなされています。本研究では、電極反応であるホスト材料への電気化学的インターカレーション反応の速度に影響を与える因子を明らかにし、高速充放電が可能な二次電池を創出する上で重要なホスト材料の設計指針を提示することができました。
ホスト材料である層状無機化合物に対して電気化学的にイオンを挿入(インターカレーション)する反応は、リチウムイオン電池をはじめとする様々な二次電池の電極反応に広く利用されています。この反応速度は二次電池の充放電スピードに直結するため重要ですが、これまでその反応速度に対して影響を与えるホスト材料の因子はほとんど明らかになっていませんでした。このような因子を明らかにできれば、より高速な充放電が可能な二次電池を創出するうえで重要なホスト材料の設計指針を明確化できます。
私たちの研究室では、これまでに化学的・構造的特徴が異なる炭素材料を作り分ける技術を得ています。その知見を活用することで、特徴が少しずつ異なる様々な炭素材料を合成し、それらをホスト材料として電気化学的インターカレーション反応速度を計測することで、これらのどのような因子が反応速度に影響を与えるのかを明らかにすることができると考えました。具体的には、電気化学インピーダンス法と呼ばれる定量的評価に適した手法を適用し、アニオンをインターカレーションする反応の活性化エネルギーを算出しました。一連の実験および定量的解析の結果から、ホスト材料である炭素の層間距離が大きくなるほど活性化エネルギーが低下し、一方でヘテロ原子である酸素の導入量が多いほど活性化エネルギーが上昇することを明らかにしました。
研究結果から、インターカレーション反応の活性化エネルギーに影響を与えるホスト材料の因子を初めて明確に示すことができました。近年では二次電池の充放電速度の高速化のために新規電解液の開発や電極作製技術の向上など様々な研究開発がなされていますが、これらの最適化が進んだ暁には、これまで顕れていなかったホスト材料の特徴の違いによる反応速度への影響が顕在化する可能性があります。今回の研究成果により、ホスト材料の設計に立脚した充放電速度の高速化に資する基礎的かつ重要な指針を提示することができました。
研究情報 | |
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ジャーナル | ACS Applied Energy Materials, 7(22), 10701-10709. |
タイトル | Unraveling the Factors of Host Materials Affecting the Kinetics of Electrochemical Anion Intercalation Reaction |
著者 | Junichi Inamoto, Shoya Enoki, Tatsuki Miyamoto, Akane Inoo, and Yoshiaki Matsuo |
メンバー | 稲本純一(工、応用化学)、榎翔也(工、応用化学(R4博士前期課程修了))、宮本樹(工、応用化学(R6博士前期課程修了))、稲生朱音(工、応用化学)、松尾吉晃(工、応用化学) |
URL | https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsaem.4c02440 |