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[ナノテクノロジー]

下地基板表面状態の精密制御による
機能性酸化物薄膜の物性コントロール

大学院工学研究科 電気情報工学専攻 助教 大坂 藍

薄膜物性は下地基板の表面状態によって大きく変化することが知られていますが、基板の表面状態(原子配列の周期性、清浄度)の積極的な制御によって薄膜物性を制御した研究例はあまり多くありません。本研究では、X線ミラー加工に用いるような超精密加工技術を薄膜物性制御へと展開し、加工技術による物性変調に取り組んでいます。

原子単位で材料表面を平滑化する全く新しい化学研磨法を用いて結晶配列に乱れの無い理想的な平滑表面を作製し、その上で薄膜成長を行うことで、意図しない乱れによる劣化を抑制した潜在的な材料物性を示すマグネタイト薄膜を実現しました。

背景

情報通信分野の消費電力増大により、従来のシリコンCMOS 技術に立脚した半導体エレクトロニクスは、集積回路の微細化も限界に達しつつあります。これに対応する新しい物理・デバイス概念、いわゆるBeyond CMOSの実現のため、シリコンに代わる強磁性・強誘電性体などの機能性酸化物、磁性化合物体などの新物質の探索が活発に行われています。遷移金属酸化物は、強磁性半導体性、巨大強誘電性を示す魅力的な物質系材料群であり、次世代不揮発性メモリとして有望視されていますが、潜在的な材料物性をデバイスに要求されるナノサイズで発現させるのは困難でした。

詳細

マグネタイトは、絶縁体–金属相転移(フェルベー転移)に伴い2桁以上の巨大抵抗変化を示し、室温でスピン偏極率が約100 %である等の優れた物性を有する有力なスピントロニクス材料です。しかし、ナノデバイスに要求される試料サイズ(100nm以下)では物性値が著しく低下するという問題がありました。主要因は原子レベルの乱れに起因する積層欠陥で、この欠陥によって物性の理解と制御が阻まれていました。本研究では、加水分解を利用した独自の化学研磨法により表面粗さ、原子配列の乱れを極限まで排除した基板を用いています。これにより、50 nm厚さのマグネタイト極薄膜において明瞭なヒステリシスを示すフェルベー転移を実現しました。同結果は、基板上に複数作製したほぼ全ての試料で観察され、これは完全結晶表面が基板全体に実現されたことを裏付けています。

展望

以上の結果から、基板表面状態の精密制御は薄膜の基礎物性理解のみでなく、デバイス応用時の歩留まり向上にもつながることが期待できます。具体的には、小型・高感度なセンサーの開発、高速動作スイッチングデバイスの開発、プロトンをキャリアとして駆動させる新しいデバイスの開発といった研究に結びつくと考えられます。

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大学院工学研究科 電気情報工学専攻 助教 大坂 藍

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https://researchmap.jp/ai_i_osaka

研究者情報

研究情報
ジャーナル ASC Appl. Nano Mater.
タイトル Nondeteriorating Verwey Transition in 50 nm Thick Fe3O4 Films by Virtue of Atomically Flattened MgO Substrates: Implications for Magnetoresistive devices
著者 A. I. Osaka, D. Toh, K. Yamauchi, K. Hattori, X. Shi, F. Guo, H. Tanaka, and A. N. Hattori
メンバー 大坂藍(工、電子情報)
URL https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsanm.1c02634

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