

金は、我々が手に取れるバルク(塊)のスケールでは黄金色ですが、ナノメートルサイズの微粒子になると、鮮やかな赤色を呈します。これは金属中の「局在プラズモン」というコヒーレントな電子の波が、白色光に含まれる特定の色を強く吸収・散乱するためです。我々はこの局在プラズモンを活かして、光エネルギーを高効率に熱に変換するナノアンテナを開発しています。
金ナノ粒子は局在表面プラズモンにより光を強く吸収し熱へ変換するため、がん治療や触媒、太陽光利用など幅広い応用が提案されてきました。しかし金は高価で融点も低く、高温での安定性に課題がありました。そこで注目されるのが窒化チタンで、金と類似した光学特性を有しつつ、約3000℃の高融点を示し、優れた光熱変換安定性を備えています。我々はシミュレーションと微細加工により多様なナノ構造を設計・作製し、その特性評価と応用開拓を進めています。窒化チタンナノヒーターは、マイクロ流路反応制御やオンチップ熱プロセス、太陽光蒸留・水素製造に加え、熱アシスト磁気記録など情報ストレージにも展開可能で、持続可能社会を支える新しいナノテクノロジーを切り拓きます。
西洋の教会のステンドグラスにも見られるように、金を微小にすり潰してガラスに混ぜ込むと、バルク(塊)スケールの黄金色とは異なる、鮮やかな赤色を呈します。科学技術の進歩に伴って、非常にサイズが揃った金ナノ粒子のコロイド溶液の合成が可能となり、また電磁気学の学問体系が整備されたことで、この金ナノ粒子の鮮やかな赤色は「局在表面プラズモン」という電子のコヒーレントな振動によることが分かってきました。このプラズモンの固有振動数と一致する周波数の光をナノ粒子に照射すると、ナノ粒子は光を共鳴的に強く吸収して、その光エネルギーは熱に変換されます。この金ナノ粒子が示す光熱変換は、ナノテクノロジー分野で盛んに研究されており、がん細胞の光温熱治療や、触媒反応の促進、そして太陽光による水の蒸留など、多くの分野での応用が提案されています。
局在プラズモンによるナノ粒子の高効率な光熱変換は、物理的なメカニズムは理解が進んでいますが、実際の応用を想定すると、金ではいくらか課題があることが分かってきました。まず最近の金価格の高騰から、コスト的な問題が大きいです。次いで、金は物理化学的には非常に安定であるものの、融点が低いため、ナノ粒子を光で加熱するとすぐに融解して変形してしまいます。そこで世界的にも注目を集めているのが、窒化チタンです。窒化チタンの薄膜は、金と似た黄金色の金属光沢を呈するので、ナノ粒子にすると良好な局在プラズモン共鳴を示します。そして、窒化チタンは融点が約3,000℃と著しく高いため、光加熱された際の安定性も極めて優れています。我々のグループでは、様々なサイズおよび形状の窒化チタンのナノアンテナを数値シミュレーションで設計し、そして電子線リソグラフィなどの微細加工技術でこれらを実際に作製して、光熱変換特性を評価し、ナノテクノロジー分野での応用も開拓しています。
窒化チタンを用いたプラズモニックナノヒーターは、高温域での安定性と優れた光熱変換特性を兼ね備えており、微小領域での精密な熱利用に適しています。応用例としては、マイクロ流路内の化学反応制御やオンチップ型の熱プロセスに加え、太陽光を利用した蒸留や水素製造などのエネルギー技術が挙げられます。さらに、商業化が進む熱アシスト磁気記録に代表される情報ストレージ分野への展開可能性もあり、持続可能社会に資する新しいナノ熱工学の基盤を築くことが期待されます。
| 研究情報 | ||
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| ジャーナル | RSC Advances | |
| タイトル | Switching nanoscale temperature fields with high-order plasmonic modes in transition metal nanorods | |
| 著者 | Kenji Setoura, Mamoru Tamura, Tomoya Oshikiri, and Takuya Iida | |
| メンバー | Kenji Setoura | |
| URL | https://doi.org/10.1039/D3RA06649E | |
| 報告学会、展示会等の情報、 その他関連情報 | "Switching of surface temperature of plasmonic titanium nitride nanostructures by circularly polarized light", Optical Manipulation and Structured Materials Conference 2025 (SPIE). | |