研究テーマ(Research)
・グロー放電プラズマを用いた炭素薄膜の作製
Praparation of carbonaceou thin films by glow discharge plasma
気体の大部分が陽イオンと電子に電離した状態ではあるが全体として中性の気体(電気化学で言うと電解質のイメージです)であるプラズマを用いて低温(600℃ですが炭素材料の作製では低温です)で黒鉛質の炭素薄膜を作って表面形状や結晶性を調べています。本研究では非平衡プラズマを利用しています。非平衡プラズマはガス温度(体感温度みたいなもの)は低いのですが(200℃ぐらい?)、電子が大きなエネルギーを持ってるのでそのエネルギー交換で高温で熱を与えるのと同じ効果を与えます。そういうわけで装置そのものの温度が低くても高温で作った場合と同じような効果があります。ここで使っているのは低温プラズマともいいます。
・プラズマCVD法により作製した炭素薄膜のリチウム挿入脱離機構の解明と界面リチウムイオン移動の解析
・Insertion and extraction of lithium ion for carbonaceous thin films prepared by plasma CVD
・Lithium ion transfer at the interface of carbonaceous thin film/electrolyte solution
作製した炭素薄膜の応用として、現在注目を集めているリチウムイオン電池*の負極にグラファイトが使われていることから炭素薄膜をそのまま電極として特性を調べています。この炭素薄膜は膜厚がサブミクロンで表面が平滑であることから、構造を規制した電極として使用できます。この薄膜は実用化はコストの面から難しいのですが、基礎的研究に役立つ特徴を持っているので非常に興味深いです。現在は反応機構よりむしろ界面のイオン移動に着目しています。パラメータを変えながらいろいろ調べています。・・・最近は被膜の役割に注目しています。
*リチウムイオン電池・・・リチウムイオン電池は正極にリチウム含有遷移金属酸化物(LiCoO2やLiMn2O4)、負極に炭素材料を用いています。両電極間をリチウムイオンが移動することにより、電気化学反応が生じ電力を貯蔵したり、放出したりできます。このため、電力はリチウムイオンを吸蔵・放出量に依存し、これはホストである電極材料にどれだけリチウムイオンが吸蔵できるかによります。つまり、電極材料により吸蔵できるリチウムイオンの数が決まってきます。
・炭素薄膜の表面プラズマフッ素化による構造と電気化学特性への影響
Surface fluoriation of carbonaceous thin films by plasma treatment and their stucture and electrochemical properties
これも上記の続きですが。炭素薄膜表面にフッ素原子をつけるとどうなるかということです。これまで、天然黒鉛のフッ素化で可逆容量*の増加が報告されています。そこで、不可逆容量**に対してはどうかということを調べています。電極として金属板の片面に薄膜が付いてるので表面処理が非常に容易です。ここでも低温プラズマを使っています。どうやら、表面のフッ素原子が初回リチウムイオン挿入で起こる固体電解質界面の形成に何らかの影響を与えているようです。おもしろいのですが、パラメータが多くてややこしいです。
*可逆容量・・・電池を充電した後、実際に使った場合に得られる放電時の容量です。天然黒鉛の場合は層間にLiC6という組成しかリチウムイオンを吸蔵できないため、計算すると372mAh/gという容量になります。
**不可逆容量・・・負極に炭素材料を用いると、リチウムイオンの挿入電位が非常に低いため、その電位に達する前に電解液が還元分解されてしまい、反応が起こりません。しかし、この還元分解された溶媒の分解生成物が電極表面でリチウムイオンは通すが電子は通さないという非常に都合のいい膜を作ります。これを固体電解質界面(SEI)と呼びます。ただし、このSEIを作るのに溶媒が余分に電気を消費します。これが不可逆容量の大部分です。しかし、これができないとリチウムイオンが挿入されないため、なるだけロスを最小限にしたいわけです。
・炭素薄膜の表面酸素処理による構造と電気化学特性への影響
Surface oxidation of carbonaceous thin films by plasma treatment and their stucture and electrochemical properties
さらに上記の続きですが、表面を酸化するとどうなるかということです。これも表面酸化で容量の増加がいわれています。ここでは酸素プラズマで表面を穏やかに酸化しています。これに関してはまだまだ難しいところが多いです。どうやらフッ素処理と似た効果もあるようなので、いろいろ調べています。
・酸素プラズマアシストによる酸化物微粒子薄膜の合成
Synthesis of fine particle oxide films by using O2 plasma treatment
低温酸化物合成法のうちゾル−ゲル法のなどの手法では前駆体に有機物(炭素)が含まれているため、炭素の除去に必要以上に高温が必要になります。また、炭素が燃焼するとそのときに発生する熱で局所的に高温になります。これらの原因で究極の微粒子化には問題が残ります。そこであらかじめ前駆体中の炭素を除いてやることができれば、焼成温度の低下と熱発生が抑えられると期待できます。そこで、この研究では酸素プラズマで生成する活性種により炭素を酸化分解することで除去します。酸化は燃焼ではないため、熱は発生しません。これがうまくいけば焼成温度の低下が可能になり、よりナノオーダーに近い粒子の合成が期待できます。なかなか難しいです。新しいスピンコータの導入でかなり再現性は出ました。最近ではマンガン酸リチウムを合成しています。結果の解釈は難しいですが、興味深い結果は得られています。この手法をわれわれは酸素プラズマアシストゾル−ゲル法(Oxygen plasma-assited Sol-gel method)と呼んでいます。