温度応答を示す生体適合性ブロック共重合体の合成

はじめに

(1)生体適合性のあるポリマー

 生体膜と同様の構造を分子内に持つモノマーである2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC,図 1)を重合することで得られるポリマーは,蛋白質の癒着や細胞の吸着が起こりにくいといった特徴があることが知られていて人工血管の内部のコーティングや 人工関節の表面の修飾などへの利用が検討されています.

図1 2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)の構造

(2)両親媒性ブロック共重合体
 疎水性のブロックと親水性ブロックの二つのブロックから構成されたブロック共重合体(両親媒性ブロック共重合体)は水中で会合して高分子ミセルを形成す ることが知られています.図2に両親媒性ブロック共重合体と高分子ミセルの概念図を示しました.これはセッケンなどの低分子が水中でミセルを形成する場合 と同じで,内側が疎水的で外側が親水的な環境となっています.そのため,内部に疎水的な薬剤を保持させることができます.

図 2 両親媒性ブロック共重合体の構造の概念図(左),高分子ミセルの概念図(右).

(3)温度により水溶性の変化するポリマー
 N,N-ジエチルアクリルアミドを重合して得られるポリマー(pDEA)は温度変化により水溶性の変化するポリマーとして知られています.pDEAは室温では親水性であるので水に溶解します(図 3,左).しかし,水溶液の温度を32℃より高くするとpDEAは疎水性となり水に溶解しなくなります(図 4,右).今回,pDEAの水溶性の変化を図 4のイラストのように表します.

図 3 室温のpDEA水溶液(左),40℃のpDEA水溶液(右).



図 4 温度によるpDEAの水溶性の変化.

本研究

  本研究では(1)〜(3)の要素を利用するため,生体適合性のあるMPCポリマーと温度により水溶性の変化するDEAポリマーのブロック共重合体を合成し ました.合成したブロック共重合体は,室温の水溶液中では単一のポリマー鎖(ユニマー)として水に溶解します(図 5,左).しかし,温度を上昇させるとDEAブロックが疎水性となる)ので,両親媒性ブロック共重合体のときと同様に高分子ミセルを形成すると考えられま す.このとき,高分子ミセルの外側は生体適合性のあるMPCブロックが覆う形になるので,体内で異物として認識されないと期待されます.


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