研究内容

どんな研究をしてるの?

 両親媒性高分子電解質の自己組織化と機能に関する研究を行っています。両親媒性高分子電解質とは、水に溶解しやすいイオン性の部分と油に溶解しやすい部分の両方を合わせ持つ高分子のことです。非常に単純に言ってしまえば、セッケン分子の高分子版と考えてください。

  ところで、セッケン分子は図1のように水に溶かすだけで自発的に会合してミセルを作りますよね?これはセッケン分子中の疎水的な部分が会合し、親水的な部 分が外側を向けて集まるためです。このように分子が自発的に集合体を形成することを自己組織化と呼んでいます。それでは、図2のようにセッケン分子自体を 高分子で作ってみたらどうなるでしょうか?また、このセッケン分子を図3のように高分子鎖でつなげたらどうなるでしょうか?そんな疑問からわたしたちの研 究はスタートしています。
図1
図2、3
  ところで、わかりやすい例としてセッケン分子を挙げてみましたが、「簡単すぎる!」なんて思ってはいけません。なぜなら、両親媒性化合物はセッケン、洗 剤、シャンプー、リンスはもちろんのこと、クリームなどの食品、化粧品、医薬品、さらにはわたしたちの身体を形成する細胞膜や、タンパク質、DNAまでも が両親媒性化合物でできてるんですから。

 さて、上の疑問の答えですがセッケン分子を高分子で作ると水中で高分子ミセルを形成するようになります。またセッケン分子を高分子鎖でつなぐと水中で一本の高分子鎖によって形成されるミセル、つまり単一高分子ミセルを形成することをわたしたちは発見しました(図4)。
図4
具体的に4年生になったら何をするの?

 わたしたちの研究グループに入ってくれる新4年生には両親媒性高分子電解質の自己組織化から一歩進んで、外からの刺激に対して応答性を示す自己組織体の構築を目指してもらいます。具体的には次の4つのテーマが準備されています。


1. pH変化で開閉する高分子カプセル
2. 温度変化で会合-解離を繰返す高分子ミセル
3. 光で会合-解離を繰返す高分子ミセル
4. 電気刺激で会合-解離を繰返す高分子ミセル
1 pH変化で開閉する高分子カプセル

  図5に示すスルホネート基と弱酸のカルボキシル基をランダムに含むポリマーを合成してもらいます。スルホネート基はpHを変化させてもほとんど影響を受け ないのに対し、カルボキシル基はpH5以下で疎水性のカルボン酸になり、5より高いpHで親水性のカルボキレートイオンに変化します。

図5

  このポリマーは図6に示すようにアルカリ性にすると疎水性のアルキル基の末端のカルボキシル基がカルボネートイオンに変化して水溶性が増加するので、水中 で広がった形態になり、酸性にするとアルキル基の末端のカルボキシル基がカルボン酸になり疎水性が増加するので、水相からはじかれて単一高分子内でアルキ ル基どうしの会合が起こります。

図6 

  この様子を模式的にわかりやすくしたのが図7になります。酸性の時にパックマンは口を閉じてコンパクトな形になり、疎水性の低分子を取り込みますが、アル カリ性にするとパックマンは口を開いて大きな形になり、取り込んでいた低分子を放出するのです。以上のような研究を詳しく行ってもらう予定です。

図7
2〜4 温度、光、電気で会合-解離を繰返す高分子ミセル

  2〜4はぞれぞれ別のテーマなのですが、コンセプトが似ているのでまとめて説明します。1のテーマのランダムポリマーとは異なりブロックポリマーを作って もらいます。代表で温度応答性ブロックポリマーを図8に示します。図8のポリマーの構造の左側は高分子電解質で常に水に可溶な部分です。しかし、右側の部 分は32℃以下では親水的で水に可溶ですが、32℃より高い温度では疎水的になり水に溶けない性質を持った特殊なポリマーです。わかりやすくするために図 8でポリマーの構造を魚に例えてあります。魚の頭の部分が温度によって溶解性が変化する部分、尾の部分が常に水に溶解する部分です。

図8

  ここでセッケン分子がなぜミセルを作るか思い出して下さい。水に溶解しにくい疎水的な部分が自発的に集合するためにミセルができるんでしたよね?というこ とは、図9に示すように水温が32℃以下ならばポリマー(魚)の全ての部分が水溶性なので、ポリマー(魚)は水に溶解して個々のポリマー(魚)は自由気ま まにふるまいます。でも温度を32℃より高くするとポリマー(魚)の温度に応答する部分(魚の頭)が疎水的になるために、高分子ミセルを形成すると考えら れます。このような温度による会合-解離は何度でも繰返し行うことができるはずです。

図9

  それでは、32℃より高い温度で魚達が集まっている中心部分に疎水性の低分子を取り込ませておいたらどうなるでしょう?低分子を魚達に取り囲ませておい て、ある場所まで運んでから温度を下げて魚達を自由にしてあげたら、疎水性の低分子を目的の場所まで運んでから放出させることが可能になるのです。研究 テーマの3と4は温度のかわりに、光や電気の刺激で会合-解離を制御しようというコンセプトです。

 実はこのブロックポリマーの合成方法 がつい最近開発された画期的な方法なのです。ひと昔前では図8に示すようなブロックポリマーは合成することはできませんでした。このように、これまでに無 いブロックポリマーを使って様々な機能性を発揮させようとする研究は現在、最も競争が激しく研究のスピードが要求される分野です。
この研究は何の役に立つの?

 わたしたちは、研究を行うからには長い年月かかったとしても世の中にその成果を還元しなければいけないと考えています。では、上で述べた高分子は世の中で、どのような役に立つのでしょうか?1つの例を挙げてみましょう。

 DDS という言葉を聞いたことありますか?これはドラッグ・デリバリー・システム(薬剤送達システム)の略です。多くの場合良く効く薬、例えば抗癌剤などは健康 な細胞にまで悪影響を与えてしまうという副作用があります。そこで、薬をポリマーのカプセルで包み込んでから体内に入れ、患部でポリマーのカプセルが開く ようにしたらどうでしょう?健康な細胞は全く傷つけずに、患部にのみ大きな薬剤の効果を発揮させることができるようになります。このような夢のような話を 実現するために、わたしたちが合成する刺激応答性高分子が役立ちます。さらに外部刺激応答性ポリマーは環境汚染物質センサーや、生体摸倣分子として生体機 能の解明にも役立ちます。
研究ライバルは?

研究における金メダル、銀メダル、銅メダルって何でしょう?残念ながら研究には銀メダルや銅メダルは準備されていません。金メダルしかないのです。つまり1番目に研究成果を発表したグループのみが賞賛されるのです。それが厳しい現実です。
両親媒性高分子の自己組織化や刺激応答性分子に関する研究は世界中の多くのグループが関心を持って研究を行っています。だから世界中の研究者がライバルだと考えて下さい。 1日でも早い研究成果が望まれます。
遊佐グループの研究体制は?

非常に競争性の高い分野の研究を行っているので、何よりも研究を優先して行う必要があります。だからといっ て単純に作業を行うだけの人間になってはいけません。常に実験操作やデータの意味を考えながら研究を進めてもらいます。そのために、基礎的な有機合成や、 重合、NMRや蛍光、光散乱などの分光学的な測定、パソコンを用いた高度なデータ解析、さらにはプレゼンテーションのテクニックまで身につけてもらいま す。とは言ってもこれだけ多くのことを1年で身につけるのは至難の業です。だからこそ、大学院に進学して一緒に研究を続けてくれる人を募集します。3年後 には見違えるように成長した自分に出会えるはずです。
指導方針は?

 研究室選びには研究内容も重要ですが、実は教官とウマがあうかということはもっと重要かもしれません。わたしは人生も研究 も楽しくなければ意味がないと思っています。だから、楽しく研究を行いたいですね。でも本当の楽しみや喜びというのは、研究の大きな苦労や苦しみの向こう 側にあるのです。共に研究の楽しみや喜びを味わうために、時には非常に厳しい指導を行うこともありますので覚悟しておいて下さい。


【研究内容トップに戻る】
【ホームに戻る】