空気静圧スピンドルの構造と性能

高速ミーリング加工に対応できる高速・高剛性のスピンドルは、高速回転に適した絞りとして自成絞りを使用し、高速回転・高出力に対応してインダクションモータをビルトインした構造が採られる。

 高速回転・高出力を発揮できる空気静圧スピンドルの構造と性能について述べる。


1.空気静圧スピンドルの絞り形式と発熱

空気静圧軸受の絞りには

オリフィス絞り
表面絞り
多孔質絞り
自成絞り

などの形式があり、剛性・高速性・安定性・空気流量・作り易さなどに対してそれぞれ特長を持っており、使用状態を考慮して適した絞り形式を選択すべきである。

 自成絞りはφ0.3〜0.8mmのキリ穴を絞りとして使用しているため製作が容易である。剛性が最大となる軸受スキマも15〜25μmと大きく、空気の剪断によって生じる発熱も少ない。軸受スキマが大きいことによって空気流量も多くなり、排気が速やかにおこなわれるため発熱につながらず、高速回転に適している。

 空気軸受の発熱は空気の剪断抵抗によって軸受スキマの空気が発熱し、主軸・ハウジングに伝達され、熱変形につながる。

 発熱量はスピンドルを無負荷で回転させるときの消費動力に比例し、次の式が成り立つ。

H:消費動力  K:定数   L:軸受部の長さ
d:軸の直径  N:回転数  h:軸受スキマ 

 発生した熱は主軸とハウジングに伝わり、飽和した状態ではコロガリ軸受とは異なり、主軸とハウジングは同一温度となる。このことは介在する15〜25μmの空気層は熱の良導体であり、冷却の容易なハウジング(固定側)を冷却することによって全体の温度制御が可能なことを示しており、下の図のような冷却ジャケットが有効である。

空気静圧スピンドルの発熱を少なくするための設計上、使用上の施策を次に示す。

1.軸受スキマを大きくする。(自成絞りを使用)
2.剛性が許容できる範囲で軸径を小さくする。
3.空気流量を増す。(絞りの孔径を大きくする)
4.排気をよくする。
5.冷却する。

 また、主軸に低熱膨張材(インバー:線膨張係数 10〜18×10-7℃)を使用することによって、伸びをステンレス鋼、鋼と比べ1/6〜1/10に抑えることができる。


2.剛 性

 部品精度を高めることにより、軸受スキマを最大の剛性が得られる最適値に近づけることができる。

 図に示したラジアル径φ60mmのスピンドル軸端での曲げ剛性は、計算値では軸受スキマが12μmのとき最大となるが、多数の実験結果からは18〜20μmが最大値となっており、高剛性を維持しながら発熱の抑制にも貢献している。

このスピンドルでは

   ラジアル方向の剛性    3.5〜4kgf/μm

   アキシャル方向の剛性   6〜7kgf/μm

が得られており、さらに回転による動圧効果で剛性が向上することも報告されている。






 高速ミーリングで使用されるエンドミルはφ1〜12mmであり、これらのエンドミルの通常の切削における負荷は小さく、図に示したスピンドルのラジアル方向の許容負荷容量が30〜40kgfであることから十分使用に耐えられる。

 しかし、加工条件の変化、工具の摩耗などにより、スピンドルに予想以上の切削力が作用することが十分考えられ、空気静圧スピンドルによる高速ミーリングを普及させていくために供給空気圧を高め、高速性を維持したまま剛性を高める研究が進められてきた。








3.精 度

 運動精度の基準となる主軸の加工精度(特に真円度0.1μm以下)は十分満足できる状態にあり、フリーラン状態での心振れ(NRRO : Non Repetitive Readout Overrall)は10nm以下になっているが、この状態を維持したまま高速・高出力で駆動することは難しい。

 スピンドルの駆動方法には、

・ベルト駆動
・カップリングによる駆動
・軸に直接モータのロータをビルトインする方法

 があるが、高速・高出力に対応できるのはビルトイン方式だけであり、図に示した構造となる。

 高速・高出力を得るためには高周波誘導電動機がビルトインされるが、誘導電動機にはスベリやトルククリップに起因する低周波の振動がある。

 他の軸受に比べ剛性の低い空気静圧軸受では、この振動が写真に示すような心振れとなって現れ、精度(心振れ)としては0.1μm程度が限界であった。

    


4.高速性

 スピンドルでは最終的なアンバランス量の修正は最高速回転で運転し、主軸の前後端の2面でおこなう。しかし、主軸長手方向の不特定の位置にあるアンバランス量を前後端で修正することは、アンバランス量によるモーメントが発生することになり振動の原因となる。このため回転体には均質な材料を選ぶことや、主軸・ロータといった個々の部品で、あらかじめアンバランス量を修正しておくことが重要である。

 また、微少量のアンバランス量を修正するためには、写真に示すように、設計段階から修正個所、修正方法を決めておくことが大切である。


 アンバランスの修正には12等配のネジ穴に、アンバランス量に合わせて計量した重り(イモネジ)を挿入することによって微調整も可能となる。

 さらに工具を取り付けたことによってもアンバランスは発生する。最終的には工具を取付け、使用回転数で運転した時点でのアンバランス量の修正が必要である。

 高速回転をおこなうにあたっての障害の多くは駆動のモータにあるといってよい。

 DN値で300〜400百万の高速回転ではロータの発熱によるアンバランス量の変化、高周波音とこれによる共振によって心振れが増大し、使用範囲が制限されたり、カジリにつながることもある。

 図に示したスピンドルと同形式のφ50mmの空気静圧スピンドルは、高速対応の設計と高性能高周波電動機の組合せにより、主軸の最大直径部(φ80mm)での周速が230m/sec(55000min-1)時の騒音が79dBという好結果を得ている。

 高速になるに従って遠心力による軸直径の膨張と、これによる軸受スキマの減少、軸長の収縮による工具位置の変化があり、主軸の形状にも制約を受ける。