グラフェンは炭素原子からできた二次元物質でハニカム構造をしています.炭素原子が強く結びついているため,単位質量あたりの引張り強度は最強です.一方で厚みが原子一個分しかないため,しなやかに曲げることが可能です.加えて,電子移動が非常に大きいため曲げることのできる電子材料として優れた性質を持っています.
我々はグラフェンの構造や力学特性について分子動力学法を用いて研究しています.分子動力学法では原子間に作用する力を予め定め,ニュートンの運動方程式を解くことにより原子の運動を求めます.図1はグラフェンリボンと呼ばれる,短冊状のグラフェンとカーボンナノチューブが結合したときの安定構造を示しています.炭素原子一つひとつが球で描かれています.上は側面から見た図で,下が断面を表しています.カーボンナノチューブも炭素からできた物質で,高い機械強度に加え,熱伝導性,電気伝導性に優れています.カーボンナノチューブの一端が平面になることにより,電極等への接着が容易となります.この方法を用いる場合,安定構造の情報が役立つと期待されます.
分子動力学シミュレーションの長所は,実験では観察が困難な極短時間の現象を再現できることです.図2は球状のアルゴンクラスターがグラフェンに衝突した瞬間を示しています.アルゴン原子(緑の点)は弱い力で結びついているため,衝突後1ピコ秒という極めて短い時間で壊れます.しかし,グラフェンは破壊されることなく大きく変形しています.グラフェンはナノ・マイクロマシンの機械材料として期待されていますが,このシミュレーションはガスクラスタービームがその駆動源になることを示しています.
グラフェン-カーボンナノチューブ結合の安定構造
アルゴンクラスターで駆動されるグラフェン