金属材料は,変形の際の速さ,ひずみ速度,によりその抵抗値である応力-ひずみ関係が変化します.鉄鋼材料は他の金属に比べてひずみ速度による変形応力の変化(ひずみ速度依存性)が大きい材料と言われています.材料の基本的な機械的特性を測定する際の引張試験(静的引張試験)においては,通常ひずみ速度は10-210-3 s-1で行います.

たとえば,初期平行部長さ(GL0)25mmの試験片を用いて,クロスヘッド速度(CHS) 5mm/minで試験を行ったときの初期ひずみ速度(s-1)は,

となります.

先程の応力−ひずみ曲線の説明の時に,ひずみには公称ひずみ(en)と真ひずみ(et)の2種類ある,と述べました.通常の引張試験においては,CHSが一定で試験が行われます.時々刻々と平行部長さは変化しますので,「真のひずみ速度」も変化することになります.

身近な例をあげてひずみ速度の影響について考えてみましょう.たとえば自動車が衝突した際に受けるひずみ速度は103 s-1と言われています(時速60 km/hで衝突).また,1995年に起きました阪神・淡路大震災の際に家屋や建物が受けたひずみ速度はだいたい100 s-1と言われています.このような高ひずみ速度での試験は通常の引張試験機では難しく,高ひずみ速度専用の試験装置も開発されています.また,自動車の衝突実験などは実際に自動車を衝突させた際の荷重,伸び関係を測定したりしているのというのは,テレビコマーシャルなどで見かけた人も多いでしょう.

金属材料の応力-ひずみ関係は,ひずみ速度だけでなく試験温度によっても変化します.通常,温度が低くなるほど,変形応力は増大します.温度とひずみ速度の関係を考えますと,ひずみ速度を高くする効果と温度を低くする効果は等価であるとも言われています.