ある日の材料強度学研究グループ.頑張り屋の院生Mくんが机で文献と格闘中.

M: 「よ〜し,次の雑誌会こそは頑張るぞ.負けるかこのヤロォ〜.」

そこへ教官Tがやってくる.

T: 「M,実験の進み具合はどう?また追加で頼みたいんだけど.」

M: 「(ちょっとビクッとしながらも)あ,はい,わかりました.あのぉ,今文献呼んでてひとつ分からないことがあるんですけども,加工硬化指数加工硬化率の違いって何ですか?」

T: 「いきなり難しい質問だね.けど,両者には違いがあるんだよ.まず,加工硬化指数(Work hardening coefficient)真応力-真ひずみ曲線をHollomon(ホロモン)の式, s=Ken,で整理したときのnの値を示し,真応力-真ひずみ曲線を両対数グラフで整理したときの傾きからも求められる.一方で,加工硬化率(Work hardening rate)は同じく真応力-真ひずみ曲線におけるある真ひずみでの応力とひずみの傾き(ds/de)から求められるものを言う.ちょっとややこしいけどわかるかな?」

M: 「(キョトンとしたまま)あ,まぁ,なんとなく.」

T: 「加工硬化指数というのは,よくn値と言われて,その値は均一伸びに相当すると言われている.一方で,加工硬化率と真応力-真ひずみ曲線の関係から,s=ds/deの関係(塑性不安定条件と言います)が成り立つ場合,このときのひずみを公称塑性ひずみに直したものを均一伸びとして定義しているんだよ.」

M: 「(まだ,キョトンとしたまま)あ,はい.わかったような,わからないような.もう少し具体的にふたつの違いって示せませんか?」

T: 「う〜ん,そうだね.これは私が学生の頃に教わったんだけど,式の形で違いを示せるみたいなんだ.(昔の資料を引っ張り出してくる).まず,加工硬化率は先程も言ったようにds/deで示すことができる.加工硬化指数については,n=(dlns/dlne)となる.」

M: 「あ,はい.加工硬化指数は両対数表示での傾きですもんね.」

T: 「これらふたつの式の関係についてもう少し式を展開してみると,

 となる.微分・積分を使って導くことができる.この式からも分かるように,じひずみでの加工硬化率が等しい場合でも,応力レベルが違えばそのn値は違うことになるのがわかると思う.」

M: 「あ,ホントや.え〜と,こういうことでいいんですかね?(Mくん,下図をサラサラと書いてみせる)

T: 「そうそう,まさにこんな感じぃ.」

M: 「ふたつの違いが少し分かったような気がします.もう少し勉強してみよっと.けど,ふたつは同じモンとばっかり思ってましたけど,違いがあるんですね.」

T: 「引張試験ひとつ取り上げても,なかなか奥は深いんだよ.」

M: 「この感動をメールで彼女に伝えて,そしてまたガンバろっと.」