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当研究室では炭素材料を中心とした新しくユニークな材料を合成し、二次電池をはじめとする様々な用途に応用しています

グラフェンライクグラファイトの二次電池用電極材料への応用


 黒鉛を化学的に酸化処理することで、その内部に多数の含酸素官能基が導入された酸化黒鉛が合成できる。 我々は酸化黒鉛を適切な条件で熱処理することで、この模式図に示すように黒鉛と類似の三次元結晶構造を有しながらも内部に数%の酸素原子(図中赤丸)やナノ孔を含む新しい炭素材料を合成し、これをグラフェンライクグラファイト(GLG)と名付け二次電池用電極材料に応用している。 例えばGLGをリチウムイオン電池負極として利用すると、現行の負極材料である黒鉛よりも大きな容量が得られ高速充放電が可能となる。また、GLGは高速充放電時にもリチウム金属の析出が起こらず、内部短絡が起こりにくく非常に安全性が高いことを明らかにしている。 この一連の研究成果は国立研究開発法人 科学技術振興機構の先端的低炭素化技術開発(ALCA)プロジェクトに採択され、多くの共同研究者の協力の下に生み出されたものである。
 またGLGはリチウムイオン電池に代わる二次電池として注目を集めるナトリウムイオン電池の負極材料や、正極反応に炭素材料へのアニオン挿入反応を利用するデュアルカーボン電池の正極材料など様々な種類の二次電池用電極材料として応用可能であり、その実用化に向けて現在研究を進めている。




ナノ細孔を有するピラー化炭素/ピラー化フラーレンの合成と分離材料への応用


 多孔質炭素材料は電気二重層キャパシタの電極、吸着剤、触媒の担体などとして用いることが可能である。 このような炭素材料としては活性炭が古くから知られているが、最近ではメソポーラス炭素などより高度に細孔構造を制御した炭素が作られるようになっている。 一方、多孔質無機材料の合成法の1つにピラー化という手法が知られている。 この手法は層状化合物の層間に酸化物等のピラー(支柱)を挿入することでピラーと層の間に細孔を作るもので、層状粘土鉱物等の多孔質化に用いられているものである。
 我々は酸化黒鉛を出発物質としてこの手法を適用し、「ピラー化炭素」を合成している(図)。これは酸化黒鉛(図中黒面)の面内に存在する含酸素官能基(図中赤丸)とシリル化剤を反応させ、熱処理することで層間にシルセスキオキサン類のピラー(図中青円柱)を立てた材料である。 これによりピラー化炭素の層間にはナノサイズの細孔が形成される。合成条件により細孔径やピラー密度、長さなどを制御することが可能であり、分子選択性を持つ分離材料やセンサー材料、電気化学デバイスなどへの応用を行っている。 また、本手法によるピラー化を水酸基を導入した水酸化フラーレンに適用することで、3次元的な細孔構造を有するピラー化フラーレンの合成も行っている。




モデル電極を用いた電気化学反応解析


 現行の二次電池の高性能化や、革新型二次電池の実現のためには、電極で起こる電気化学反応について基礎的に理解することが重要である。 例えばリチウムイオン電池などの実用二次電池には、充放電反応を起こす活物質の粉末に対して、導電性を付与するための導電助剤炭素やそれらをつなぐ高分子バインダーを混練した合剤電極と呼ばれる電極が用いられている。 しかし活物質で起こる電気化学反応や活物質の表面状態、活物質と電解液の界面で起こる反応などを解析する上では、これらの活物質以外の成分が解析の邪魔となったり、結果の解釈を困難にさせる事がある。 活物質のみからなるモデル電極を用いることで、系をシンプルにして見たい対象だけを詳細に調べることが可能となる。 我々はモデル電極として活物質のみからなり平滑な表面を有する薄膜電極をを用いてこれまでに研究を行っている。
 例えばリチウムイオン電池正極活物質をパルスレーザーデポジション法と呼ばれる手法で薄膜化し(図)、その表面で起こる劣化現象について解析を行っている。 また、上述のグラフェンライクグラファイトやピラー化炭素の薄膜の合成法をこれまでに確立し、これをモデル電極として各種電気化学分析法や分光法を適用することでその表面状態の解析や種々のイオン挿入反応速度の解析を行っている。




革新型二次電池用電極材料の開発および反応解析


 リチウムイオン電池は現在実用化されている二次電池の中で最もエネルギー密度に優れており、様々な用途に利用されている。近年では携帯電話やノートパソコンなどの小型用途だけでなく、電気自動車や家庭用蓄電池などの大型用途にも利用の幅が広がっている。 このような用途では二次電池に要求される性能がこれまでよりもシビアになっており、現行のリチウムイオン電池と比較して安全性や長期耐久性、エネルギー密度などの点で優れた性能をもつ革新型二次電池の実現が喫緊の課題となっている。 そのような二次電池の候補にはいくつかあるが、当研究室では全固体リチウムイオン電池やフッ化物イオンシャトル電池などに取り組んでいる。 全固体リチウムイオン電池は従来のリチウムイオン電池に用いられている電解液を固体電解質、すなわちリチウムイオン伝導性を持つ無機固体に置き換えたものであり、従来のリチウムイオン電池よりも安全性が高く、さらなる高エネルギー密度が実現可能な二次電池である。 フッ化物イオンシャトル電池は電荷のキャリアーとしてリチウムイオンなどのカチオンではなく、フッ化物アニオンを利用する新しい二次電池であり、リチウムイオン電池よりも高容量で高安全性が期待できる(図)。
 当研究室で開発した新しい炭素材料をこれらの二次電池の電極材料に利用し、共同研究者との連携によりその電気化学反応の詳細な解析を行いながら革新型二次電池の実現に向けた基礎的研究を行っている。