ムーンショットプロジェクト


~台風下の海表面での運動量・熱流束の予測と制御をめざして~

プロジェクト最新情報

日本科学未来館で「天気をあやつる?~Eテレ映像と実験でのぞき見る気象研究の未来~」におけるサイドイベントを実施しました。 NEW
日本科学未来館で「天気をあやつる? ~Eテレ映像と実験でのぞき見る気象研究の未来~」におけるサイドイベントに出展致します (2024/03/31)。
九州大学で第2回「ムーンショット目標8 高垣プロジェクト」ワークショップを開催します (2024/03/26)。
台湾にて開催されたThe 3rd Joint Symposium on Advanced Mechanical Science and Technology (3rd JSAMST)で学生2名(林、大前)が発表を行いました。
ムーンショット研究成果がCoastal Engineering Journalにおいて発表されました。
実験装置と実験の様子の動画を公開しました。
ムーンショット目標8高垣プロジェクト動画を公開しました。
九州大学で第1回「ムーンショット目標8 高垣プロジェクト」ワークショップを開催します(2023/03/06)。
ムーンショット目標8 高垣プロジェクトのHP公開しました。

プロジェクト紹介動画

概要

ムーンショット型研究開発制度は、わが国初の破壊的イノベーションの創出を目指し、従来技術の延長にない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発を推進する国の大型研究プログラムです。このプログラムでは、総合科学技術・イノベーション会議(内閣府)によって決定された図1に示す9つの目標が掲げられており、それら全ての目標は「人々の幸福(Human Well-being)」の実現を目指しています。

※ムーンショット:前人未踏で非常に困難だが、達成できれば大きなインパクトをもたらし、イノベーションを生む壮大な計画や挑戦のこと

図1.ムーンショット型研究開発制度の概要

https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/index.html

2022年4月に、兵庫県立大学大学院工学研究科の高垣直尚准教授をプロジェクトマネージャ(PM)とする要素研究プロジェクト『台風下の海表面での運動量・熱流束の予測と制御』が、図2に示すムーンショット目標8プログラム『2050年までに、激甚化しつつある台風や豪雨を制御し極端風水害の脅威から解放された安全安心な社会を実現』(国立研究開発法人 科学技術振興機構)において採択されました。本プロジェクトでは、台風の強度予測精度の向上のために、台風を模倣することが可能な日本唯一の大型の台風シミュレーション水槽を使用して、台風下の海面を通しての運動量・熱の輸送機構の解明と高精度の大気・海洋間の熱・運動量輸送モデルの開発に取り組みます。さらに、海水面状態を変化させた場合の台風強度を高精度に予測し、台風の制御(弱体化)が可能であるかどうかを調査検討します。

図2.目標8のプログラム概要
https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/sub8.html

以下のURLからもプロジェクト概要をご覧いただけます
https://www.jst.go.jp/moonshot/program/goal8/files/85_takagaki.pdf

台風

台風を制御するためには、台風がいかにして発達(減衰)するかを正確に知る必要があります。一般に、図3に示すように台風は海から大気への熱供給を受け発達することが知られています。一方で、台風の持つエネルギーは台風と接する地表面や海表面(地球表面)に働く抗力によって常に奪われ続けています。したがって、海から大気(台風)へと供給される熱量が少ないと、地球表面に奪われるエネルギーが卓越するため、台風は発達せず、むしろ減衰します。日本に上陸した台風が急激に減衰する理由の一つとして、地表面での抗力の増大に加えて地表面から台風への熱供給が非常に小さくなるため、台風のエネルギーが奪われ続ける点が挙げられます。このような台風の強度(発達するか減衰するか、強まるか弱まるか)を予測するために、台風に関連する数多くの物理モデルが組み込まれた気象予測モデルを用いて、スーパーコンピュータによる数値計算が行われます。台風の進路は、主に気圧配置により決まることが知られており、実際、気圧配置をスーパーコンピュータで正確に再現できるようになったことにより、台風進路予測の精度は過去40年間で大きく向上しています。しかし、本プロジェクトで対象とするような台風強度の予測精度はあまり向上していません。その原因の1つとして、台風と海表面との間での運動量および熱の輸送機構が明らかになっていない、つまり、不確かな運動量と熱の輸送モデルが使用されているという問題点が指摘されています。その指摘に関しては、台風の直接観察や測定の難しさから、容易に台風に関わる輸送現象を明らかにできていないという現状があります。

図3.台風の断面イメージ図

海水面を通しての熱・運動量輸送

高垣PMらの研究グループは、これまで短い吹走距離を持つ水槽を使用して、高風速下の海水面を通しての運動量および熱の輸送を決定づける抗力係数CDおよび熱輸送係数CKの風速依存性について研究を行い、その成果をGeophysical Research LetterやJ. Physical Oceanography等の国際雑誌に発表してきました。抗力の測定に関しては、レーザーを用いた非接触測定法を独自開発し、世界初の超高風速下での抗力係数CDの直接測定に成功しました。その結果、図4の●印で示すように高度10m位置での風速U10が35m/sを超える超高風速下ではCDは風速に対して一定値を取るという従来の観測等では明確でなかった全く新しい風速依存性を見出しました。この風速35m/sを境としてCDが大きく変化する現象は抗力係数のレジームシフトと呼ばれています。また、このように抗力係数が抑制される原因が、風波の波頭が強い風由来のせん断力(ウィンドシア)の影響により激しく砕波・微粒化されることにあることを明らかにしています。さらに、熱輸送実験では、高風速下において気液界面を通しての熱輸送係数CKは、抗力係数CDが風速に対して一定値を取る傾向とは大きく異なり、風速の増加に対して急激に増加するという傾向も得ています(図5)。しかし、短い吹走距離に対して得られたこれらの実験結果が海洋のように大きな吹走距離に対しても本当に成立するのかどうかを大型の台風シミュレーション水槽を使用して本プロジェクトで調べる必要があります。

図4.風速U10と抗力係数CDの関係
実線及び●:高垣グループの実験値とCDモデル
破線:既往のCDモデル

https://doi.org/10.1029/2012GL053988
https://doi.org/10.1002/2016GL070666

図5.熱輸送係数と抗力係数との比と風速の関係
実線:高垣グループのCKCDモデル
破線:既往のCKCDモデル

https://doi.org/10.1175/JPO-D-17-0243.1

研究体制


本プロジェクトは、4つの課題と5名の研究者から構成されています(図6)。

①「抗力係数と熱輸送係数のモデル作成と海面流束(フラックス)変化による台風制御の可能性検証」

課題研究者としてPMである高垣直尚(兵庫県立大学)と、課題推進者である松田景吾(海洋研究開発機構(JAMSTEC))が担当します。本課題は、台風シミュレーション水槽を用いた各種実験における適切な流動場を作製・制御することを目的としています。また、数値モデルと運動量・熱フラックスの実験相関式を用いた台風強度予測計算を行い、さらに台風制御法の可能性を検証することを目的としています。

②「高風速時の海面を通しての運動量輸送機構の解明」

課題研究者として鈴木直弥(近畿大学)高垣直尚(兵庫県立大学)が担当します。本課題では、水槽実験を通して運動量フラックスを測定することにより運動量輸送機構を解明し、さらに、運動量フラックスの実験相関式を提案します。

③「高風速時の海面を通しての熱輸送機構の解明」

課題研究者として岩野耕治(岡山理科大学)が担当します。本課題は、水槽実験を通して熱フラックスを測定することにより熱輸送機構を解明し、さらに、熱フラックスの実験相関式を提案します。

本プロジェクトの検討会等にはプロジェクト・アドバイザーとして小森悟(京都大学名誉教授)が参加します。

図6.本プロジェクトの研究体制

研究手法


世界で最大規模の大型の台風シミュレーション水槽(九州大学応用力学研究所所有(図7))を用い、風速40m/sまで、かつ、吹送距離30mまでの状態における風波乱流場を実現し、気流速分布・温度分布・波高分布の測定を行います。運動量収支法や熱収支法、独自開発の非接触レーザー計測技術などを使用して砕波を伴う海水面を通しての運動量フラックスと熱フラックスの測定を行うことにより、高風速域における気液界面を通しての運動量輸送機構および熱輸送機構を解明するとともに、抗力係数および熱輸送係数に関する実験相関式を提案します。この実験相関式を用いた場合に台風強度がどの程度変化するかを、海洋研究開発機構マルチスケール大気海洋モデルMSSG(Multi-Scale Simulator for the Geoenvironment)を用いた数値シミュレーションによって検証します。水面状態制御実験においては、界面活性剤や消波材等を使用し、水面を通しての運動量・熱フラックスを変化させることが可能かどうかの検証実験を行います。さらに、ハイスピードカメラを用いて、微粒化および砕波する水面の観察を行い、液滴飛散量や気泡量などが運動量や熱の輸送に及ぼす影響を推定します。

図7.九州大学応用力学研究所の台風シミュレーション水槽

動画1 九州大学応用力学研究所の台風シミュレーション水槽

動画2 風波の様子1

動画3 風波の様子2

実施状況及び成果概要


本プロジェクトの実施状況および成果概要は以下の通りです。
https://www.jst.go.jp/moonshot/program/result.html#MS8

以下のURLからも成果概要をご覧いただけます
https://www.jst.go.jp/moonshot/program/goal8/files/85_takagaki_ap.pdf

研究成果


本プロジェクトの成果論文は以下の通りです。
Coastal Engineering Journal
N. Takagaki, N. Suzuki, K. Iwano, K. Nishiumi, R. Hayashi, N. Kurihara, K. Nishitani, T. Hamaguchi: Fetch effects on air-sea momentum transport at very high wind speeds, Coastal Engineering Journal, (2023), accepted.

Data Access Statement:
The plot data has been uploaded to a publicly accessible repository at
https://github.com/NaohisaTakagaki/FetchEffectsData

アウトリーチ活動

サイドイベントの様子

サイドイベントの様子

ムーンショット型研究開発事業 兵庫県立大学 近畿大学 岡山理科大学 九州大学 海洋研究開発機構 名古屋大学