高垣PMらの研究グループは、これまで短い吹走距離を持つ水槽を使用して、高風速下の海水面を通しての運動量および熱の輸送を決定づける抗力係数CDおよび熱輸送係数CKの風速依存性について研究を行い、その成果をGeophysical Research LetterやJ. Physical Oceanography等の国際雑誌に発表してきました。抗力の測定に関しては、レーザーを用いた非接触測定法を独自開発し、世界初の超高風速下での抗力係数CDの直接測定に成功しました。その結果、図4の●印で示すように高度10m位置での風速U10が35m/sを超える超高風速下ではCDは風速に対して一定値を取るという従来の観測等では明確でなかった全く新しい風速依存性を見出しました。この風速35m/sを境としてCDが大きく変化する現象は抗力係数のレジームシフトと呼ばれています。また、このように抗力係数が抑制される原因が、風波の波頭が強い風由来のせん断力(ウィンドシア)の影響により激しく砕波・微粒化されることにあることを明らかにしています。さらに、熱輸送実験では、高風速下において気液界面を通しての熱輸送係数CKは、抗力係数CDが風速に対して一定値を取る傾向とは大きく異なり、風速の増加に対して急激に増加するという傾向も得ています(図5)。しかし、短い吹走距離に対して得られたこれらの実験結果が海洋のように大きな吹走距離に対しても本当に成立するのかどうかを大型の台風シミュレーション水槽を使用して本プロジェクトで調べる必要があります。
世界で最大規模の大型の台風シミュレーション水槽(九州大学応用力学研究所所有(図7))を用い、風速40m/sまで、かつ、吹送距離30mまでの状態における風波乱流場を実現し、気流速分布・温度分布・波高分布の測定を行います。運動量収支法や熱収支法、独自開発の非接触レーザー計測技術などを使用して砕波を伴う海水面を通しての運動量フラックスと熱フラックスの測定を行うことにより、高風速域における気液界面を通しての運動量輸送機構および熱輸送機構を解明するとともに、抗力係数および熱輸送係数に関する実験相関式を提案します。この実験相関式を用いた場合に台風強度がどの程度変化するかを、海洋研究開発機構のマルチスケール大気海洋モデルMSSG(Multi-Scale Simulator for the Geoenvironment)を用いた数値シミュレーションによって検証します。水面状態制御実験においては、界面活性剤や消波材等を使用し、水面を通しての運動量・熱フラックスを変化させることが可能かどうかの検証実験を行います。さらに、ハイスピードカメラを用いて、微粒化および砕波する水面の観察を行い、液滴飛散量や気泡量などが運動量や熱の輸送に及ぼす影響を推定します。