兵庫県立大学の学章

熱化学

研究グループ

兵庫県立大学の学章

兵庫県立大学 大学院

工学研究科工学専攻 化学分野

熱化学研究グループ

研究室のイメージ
MENU

OUR RESEARCH研究紹介

物質の熱力学諸量、特に標準生成ギブズエネルギーを決定することは、熱力学データベースを構築するという意味でも重要です。また、融点が非常に高い材料や、蒸気圧が高い成分を含有する材料のように、実験によって状態図を作成することが困難な系では、熱力学諸量を用いることで計算により状態図を作成することが可能になります。 さらに、相の変化や安定性を考えたり、反応経路を平衡論的に検討する場合や、材料製造プロセスやスクラップからの有価金属のリサイクルプロセスを構築する場合など、熱力学諸量は非常に重要です。標準生成ギブズエネルギーを決定する方法はいくつかありますが、 当研究室では、主に"熱量計法"と"起電力法"を用いて測定を行っています。これまで測定により決定したデータを基に計算状態図や、化学平衡図を提案してきました。ここでは、熱力学諸量の測定に関する基礎的な研究について紹介します。

熱量計法による熱力学諸量の測定
Previous study

熱量計法による標準生成ギブズエネルギー(ΔfGo)の決定は、次の二つの測定から得られるデータを用いて行います。一つ目は、物質が室温において塩酸などに溶解する際に生じる溶解熱です。"溶解熱測定装置"を用いて測定します。 これにより室温における物質の標準生成エンタルピー(ΔfHo298)を決定することができます。 二つ目は、物質の熱容量(Cpです。絶対零度付近から室温付近までは"極低温熱容量測定装置"を、室温以上の高温においては"熱流束安定型DSC装置を用いて測定しています。 これらの溶解熱および熱容量の測定結果を組み合わせることで任意の温度の標準生成エントロピー(ΔfSoT)や標準生成エンタルピー(ΔfHoT)、さらに、標準生成ギブズエネルギー(ΔfGoT = ΔfHoTT ΔfSoT)を決定することができます。 この方法により、Mg-Zn系、Al-Nd系、Mg-La系などの種々の中間化合物の熱力学諸量を測定し、後世に残るデータを発表してきました。

一方、物質が構造的な相転移や磁気相転移、超伝導相転移を起こすような場合には、一般的にその温度において熱容量にλ型のピーク(ギリシャ文字のλに形が似ていることから)が観察されます。絶対零度付近から高温まで熱容量を連続して測定することには、それまで発見されていなかった相転移を発見できる可能性が秘められていると考えます。 一例として、Fig. 1に、Al-Nd系の中間化合物であるAlNd3Cp測定結果を示します。これまで知られていなかった、強磁性—常磁性相転移を74K付近に発見することができました。 強磁性—常磁性相転移温度のことを一般にキュリー点と呼びます。極低温からのCp測定により、新たな超伝導や構造相転移などが発見できる可能性があります。

Fig. 2に、AlNd3のキュリー点前後における強磁性相(丸印)と常磁性相(三角印)の標準生成ギブズエネルギ-,ΔfGom,T,の測定結果を示します。 また、強磁性相のΔfGom,T近似関数を実線で、常磁性相のΔfGom,T近似関数を破線にて示しました。 キュリー点以下では、強磁性相のΔfGom,T(実線)は、常磁性相のΔfGom,T(破線)よりも小さく、強磁性相が安定であることが分かりました。 逆に、キュリー点以上では、常磁性相(破線)のΔfGom,Tは、強磁性相(実線)のΔfGom,Tよりも小さく、常磁性相が安定であることが分かりました。 この強磁性相(実線)と常磁性相(破線)のΔfGom,Tの交点が、真のキュリー点であり、その温度は73.47 Kであることが分かりました。この成果は、常磁性から強磁性へスピンが規則的に整列するための駆動力を明らかにしています。

図1 Al-Nd2成分系中間化合物AlNd3の熱容量
Fig. 1Al-Nd二成分系中間化合物AlNd3の熱容量, Cp,の測定結果. J. Physical Chemistry, C, Vol.116,(2012), pp.20489-20495.
図1 Al-Nd2成分系中間化合物AlNd3の熱容量
Fig. 2Al-Nd二成分系中間化合物AlNd3の強磁性相(丸印)と常磁性相(三角印)の標準生成ギブズエネルギ-近似関数.強磁性相は実線で,常磁性相は破線で示した.J. Physical Chemistry, C, Vol.116,(2012), pp.20489-20495.

脱炭素化に向けて、将来的にはガソリン車の新車の販売が禁止となり、電気自動車(EV)や水素燃料電池車(FCV)への移行が見込まれています。EVやFCVの駆動モ-タ-には、強力希土類磁石の開発が必要です。当研究室は文科省元素戦略磁性材料研究開発拠点プロジェクト(ESICMM)に参画し、Nd2Fe14Bなど、磁石化合物の極低温から高温に至る熱力学諸量を決定末う研究を行いました。

Fig. 3に、Nd2Fe14BにおけるCpを温度(T)で割った値(縦軸)のT依存性を示します。 破線はこの変化における格子振動の寄与を示しています。実線と破線の間の面積が磁気エントロピーを意味します。この磁気エントロピーに基づき決定した磁気モーメントは、直接磁化測定による結果と一致することが分りました。 この成果によって、磁気異方性はNdの4f軌道が担い、強い磁化はFeの3d軌道が担うことが明らかとなり、次世代希土類磁石開発のための学理構築に寄与しています。

図3 Nd2Fe14Bの磁気エントロピー
Fig. 3Nd2Fe14Bの磁気エントロピー.Termochim. Acta., Vol.690, (2020), pp.178672-1-18.
固体電解質を用いた起電力法
Previous study

固体電解質を用いた起電力法」は、酸素イオン伝導体である固体電解質を用いて酸素濃淡電池を作製し、その起電力を測定することで標準生成ギブズエネルギー、ΔfGoT、を決定する方法です。

Fig. 4に、起電力法の測定原理を示します。固体電解質は、ジルコニア(ZrO2)にイットリア(Y2O3)やカルシア(CaO)を添加したものが用いられます。この固体電解質を介して、一方を対象物質を含んだ一定の平衡酸素分圧をもつ電池試料とし、もう一方を一定の酸素分圧をもつ平衡試料や大気中の酸素とします。 酸素分圧が低い方がアノード、酸素分圧が高い方がカソードとなる酸素濃淡電池が形成されます。所定温度において酸素濃淡電池の起電力から、電池両極の酸素分圧比や電池反応の反応ギブズエネルギーが決定でき、さらには、電池試料中の対象物質の標準生成ギブズエネルギーを算出することができます。 この起電力法では、対象物質を含んだ平衡相の関係を把握しておく必要がありますが、精度良い値が得られることが特徴です。

Fig. 5に、本研究で決定したCr-B二成分系の標準生成ギブズエネルギーを用いて作成したCr-B-O3成分系の酸素ポテンシャル図です。通常の状態図では理解できない合金組成と酸化物相の酸素ポテンシャルとの関係を明らかにすることができました。測定した熱力学諸量は化学平衡図の作成や酸化特性の考察などに活用することができます。

図4 起電力法測定原理
Fig. 4起電力法の原理.
図5 Cr-B-O系組成-酸素ポテンシャル図
Fig. 5Cr-B-O系組成-酸素ポテンシャル図.Materials Transactions, Vol. 62, No. 6, pp. 821-828 (2021).

当研究室では古くから溶融塩電解に関する研究を行ってきました。溶融塩は、文字通り"溶融"した金属"塩"のことであり、無機系の金属塩を用いる場合、数百℃~1000℃程度のイオン性の融体です。この高温の溶融塩における電解により、過去にマグネシウムやタングステン、モリブデンなどの電析について研究を行ってきました。 近年では、塩化アルミニウムなどを用いた低温の溶融塩(100~150℃の温度で溶融)や、イオン液体、アルコール類を用いた非水溶液において、機能性材料の電解作製に関する研究を行っています。

高耐食性Zn-Mg合金めっき
Previous study

亜鉛めっきおよび亜鉛合金めっきは安価で防錆効果の高い表面処理で、特に自動車用外装材や建材などに使用される鋼板などに広く利用されています。その中でマグネシウムを含有したZn-Mg合金めっきの耐食性はZn単独めっきの約5~20倍であり、極めて高い耐食性を有することが知られています。このZn-Mg合金めっきを工業的に大量生産が可能な電気めっきにより得るには、ZnとMgを共析させる必要があり、水素発生のない非水溶液系の溶媒(例えば溶融塩)を用いることが不可欠です。 さらに、自動車用鋼板上にZn-Mg合金めっきを施すことを考えると、熱処理工程で得られた鋼板の強度を低下させないよう150℃以下の電解温度で行う必要があります。そのため、当研究室ではイオン液体を用いた低温(室温~150℃)における溶融塩電解により、Zn-Mg合金めっきを作製する研究を行ってきました。 EMIBやTMPA-TFSIといった有機イオン液体を電析溶媒とし、エチレングリコールやグリセリンといったアルコール類を添加剤とした電解浴から、マグネシウムを2~25 mol%含有した 亜鉛めっきを作製することができ、その耐食性は、Zn単独めっきの場合と比較して約20倍であることを報告しました(Fig. 6)。

また、前述した研究から、エチレングリコールは安価で120℃程度の温度では金属塩を多く溶解することが分かり、エチレングリコールを添加剤としてではなく溶媒として用いることにしました。 エチレングリコール非水溶液からも、亜鉛-マグネシウム合金めっきを作製することに成功しています。

図6 Zn-Mg合金めっきの耐食性
Fig. 6Zn-Mg合金めっきの耐食性.表面技術, Vol. 57, No.1, pp. 84-89 (2006).
熱電変換材料の電解作製
Previous study

熱電変換材料は材料内に生じた温度差を直接電気エネルギーへと変換することが可能です。熱電変換材料を用いることで、電気製品や工場、車などから排出される熱エネルギーを電気エネルギーに変換することができるため、エネルギーの有効利用が可能です。 通常の熱電変換デバイスは、p型材料とn型材料を交互に接続して構成されていますので、薄膜の熱電変換材料を利用すれば省スペース・高容量のデバイスが実現可能です。本研究では、薄膜状の熱電変換材料を作製する方法として安価で装置が簡単な電析法に着目しました。 これまで、高い熱電性能指数を有するZn-Sb系材料(Zn4Sb3)や、第三元素の添加によりp型からn型へと変化することが知られているCo-Sb系材料,組成によって熱電変換特性が変化するFe-Al系材料の電解作製について研究を行ってきました。 Fig. 7は、エチレングリコール(EG)を電析媒体とし、Zn-Sb系合金の電解作製結果を示します。EG中の塩化亜鉛と酒石酸アンチモンアリウムの濃度比と電流密度によって、得られるZn-Sb電析物の組成が制御でき、目的としたZn4Sb3(Zn含有率で57.1 mol%)に近い組成の電析物を得ることができました。 また、この電析物に温度差を与えると起電力が生じることも確認できました。

次に、溶融塩電解を用いてFe-Al系熱電変換材料を電解作製した研究結果を紹介します。溶融塩(溶融した塩)と聞くと、高温(例えば1000℃)で真っ赤に溶融した状態をイメージするかもしれませんが,AlCl3-NaCl-KCl三成分系には,100℃以下で溶融する組成があります。本研究では140℃前後の温度で溶融したAlCl3-NaCl-KCl-FeCl2四成分系溶融塩を用いてFe-Al系合金を電解作製しました。 溶融塩組成や電解条件を検討することで、様々な組成のFe-Al合金が得られることが分かりました。本研究で作製したFe-Al 合金上に、温度差を与えると起電力が生じ、その起電力の符号(ゼーベック係数の符号)は合金組成によって変化することが確認できました。 Fig. 8に, Fe-Al系合金のゼーベック係数の温度依存性を示します。Fe-Al合金の組成によってその熱電変換特性がn型やp型に変化しています。溶融塩組成や電解条件によってFe-Al合金の組成が制御でき、さらに熱電変換特性をも制御できることを明らかにしました。

図7 EGからのZn-Sb電析
Fig. 7EG溶液からのZn-Sb合金電析.ECS Transactions, Vol. 16(24), pp.191-201 (2009).
図8 Fe-Al合金のゼーベック係数
Fig. 8Fe-Al合金のゼーベック係数.J. Electrochemical Society, Vol. 168, 012503 (2021).
Present study

触媒前駆体としてアモルファス合金を利用し、その構造が触媒特性に与える影響について検討を行なっています。 アモルファス合金は結晶合金とは異なり、原子の配列が非常に無秩序でありその構造に由来した特異な性質を示します。一般的に、液体急冷法で調製したアモルファス合金はリボン状であり、表面積が極めて小さいことが知られています。 触媒としての高活性化の手法として、アモルファス合金に化学処理を施し選択的に一成分を抽出させ多孔質触媒を得る方法が用いられています。 触媒反応中や昇温過程におけるin situ XAFS測定を駆使し、多孔質金属の電子・構造状態やアモルファス合金の結晶化過程における構造変化を詳細に追跡し、多孔質金属の触媒特性と前駆体原子配列について関連を検討しています。 また、これに金属有機構造体(MOFs)を修飾することで触媒活性を向上させる研究も行っています。

アモルファス合金と結晶合金
Fig. 9アモルファス合金と結晶合金.

脱炭素社会・カーボンニュートラルを達成する方法の一つとして、化石燃料の代わりに水素を主要なエネルギーとする水素社会の実現が期待されています。そのためには、水素を「つくる・ためる・はこぶ・つかう」という一連の過程において様々な課題を克服する必要があります。 水素を(つくる)課題に対し、水素製造方法の一つである水の電気分解に関する研究を行っています。効率良く水素を製造するため、白金などの貴金属に代わる電極材料の作製を目指しています。また、水素を「はこぶ」課題に対し、水素の安全な取り扱いや容易な貯蔵・運搬の方法について様々な検討がなされていますが、その中で、室温で液体または固体として安定な高水素含有化合物として水素を保存し、必要に応じて水素を取り出す方法が注目されています。 アンモニアボラン(NH3BH3)やギ酸(HCOOH)は水素含有率が高く、通常の貯蔵条件下で安定です。これら高水素含有化合物から水素を取り出す水素生成反応において、 効率良く水素を取り出すことができる触媒の開発を目指しています。

白金代替ナノ・メゾ構造制御タングステン炭化物の作製
Previous study

水素社会の実現には水素の生成や運搬・貯蔵の技術が不可欠です。水素化合物から水素を取り出すには触媒が必要です。この触媒には白金が用いられますが、希少かつ高価でその代替触媒が模索されています。 タングステン炭化物(WC)は白金(Pt)と電子配置が似ていますが、単独のWCは触媒活性を有していません。Ptは高い磁化率をもちますが、WCは非磁性です。そこで、WC格子中に強磁性コバルト(Co)ナノ結晶をドープすることで内部磁場を付与しました。 スピングラスのコバルト強制固溶タングステン合金の触媒作用は低く、また純タングステン炭化物は触媒活性がないのに対し、強磁性体のコバルトドープタングステン炭化物は白金ナノ粒子と同等の水素生成触媒活性をもつことが分かりました。 タングステン炭化物が水素貯蔵物質アンモニアボランを吸着して分解しプロトンを放出させ、コバルトの電子スピンは核スピンをもつプロトンを集合させ、プロトンは電子を受容して気体の水素に変化すると考察しました(Fig. 10)。

この成果は、水素エネルギー技術への応用が期待され、 2021年6月7日のインターネットニュースで記事として取り上げられたほか、 2021年8月25日の神戸新聞2022年1月6日の毎日新聞で報道されました。

図10 ナノ金属コバルトドメイン内包タングステン炭化物の微細構造
Fig. 10左上:コバルトドープタングステン炭化物の原子配列(高分解能電子顕微鏡写真).右上:コバルトドープタングステン炭化物(強磁性体)とコバルト強制固溶タングステン合金(スピングラス)の磁場‐磁化曲線.右下:アンモニアボラン(NH3BH3)の加水分解による水素発生量の経時変化.左下:高速水素発生機構.